約 1,746,359 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1229.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 ワルドはルイズを連れて部屋につくと、 用意されていたテーブルにつき、用意されていたワインの栓を開けると、 それを杯に注ぎ、飲み干す。 「ルイズ、君もどうだい?」 ルイズは無言でテーブルの反対側に座る。 ワルドは、ワインをもう一つの杯に注ぎ、それをルイズに差し出すと、 自分の杯に再びワインを注いだ。そして、それを掲げる。 「二人に」 ルイズは顔を紅くして俯きながらも、それに合わせた。 ワルドはその様子を見ていた。 「心配なのかい?」 「え?」 「元気がないように見える。 ウェールズ皇太子から手紙を返して貰えるかどうか」 「……そうね、心配だわ……」 「大丈夫だよ」 ワルドはそこで一拍置く。 「僕がついてる」 「……そうね、あなたは昔から頼りになったから……」 時間が流れる。いや、時間が止まることなど無いのだから、 流れているのは当然だが。しかし、ただ無為に流れる。 「ルイズ、君も立派になったね」 「そ、そんなこと。まだまだ未熟だわ」 「僕はそう思わない」 ワルドはそこで杯を置く。 「君は昔から他の人とは違っていた」 「……そうね、昔から私は魔法が」 「そう言う意味じゃない。君は何か底知れないものがある」 ルイズが顔を上げ、ワルドを見つめる。 ワルドは真剣な表情でそれを見返していた。 端から見れば、恋人達そのものだ。 「僕はこれでもそれなりのメイジだ。 だからこそ解る」 「まさか……」 「例えばだ、君の使い魔」 「ブルーがどうしたの?」 一息、間が挟まる。 「彼の左手に刻まれたルーン……あれは、『ガンダールヴ』という、 伝説の使い魔の証だ。始祖ブリミルが用いたともされる 「……そんなはず無いわ、だって私は」 「ルイズ、自分に自信を持つんだ。 君は将来、必ず歴史に残るような偉大なメイジになれる。僕が保証する」 ルイズは、顔を赤らめて、俯く。考え込んでいるのだ。 「ルイズ、この任務が終わったら、僕と結婚しよう」 驚いて、考えを中断して顔を勢いよく上げる。 ワルドは窓の月を見つめながら、静かに続ける。 ルイズにしか聞こえないような声で。 「僕は……魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。 いつかは、この国……ハルケギニアを動かすような人物になりたい」 そして、ルイズをはっきりと見据える。 「その時は、君に側にいて欲しい」 ルージュは目覚めた。 すぐに、ドアがノックされているのに気付く。 起き上がると、ドアを開ける。すると、ワルドがそこに居た。 「おはよう、使い魔君」 「おはようございます、ワルド子爵。 ……わざわざ挨拶をしに来たんですか?」 「いや、勿論用があってきたのだ」 ワルドが部屋の中に入り、椅子に座る。 「君は、伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのだろう?」 「何のことですか?」 「とぼけなくても良い。フーケを捕らえたその実力、気になって調べてみたのだ」 「本当に知らないんですが」 「本当に知らないのか?……説明しよう。 『ガンダールヴ』とは、始祖ブリミルの従えし使い魔のうちの一つで、 あらゆる武器を扱ったとされる。それに、君自身剣を自由自在に操ったと聞いた」 ルージュはまた、違和感を感じた。 フーケから聞いたなら、剣を自由自在に扱った人物はアセルスになると思ったのだ。 この男はいちいち言うことが妙だ。信用できるか? 「そこでだ、その力、試してみたい。手合わせお願いできるかな?」 「やです」 「何でかな?」 「疲れてるんですよ。それに、重要な任務の途中に そんな事してる余裕があるんですか?」 ワルドは黙り込む。 「……それもそうだな。仕方ない、なら今度お互い暇なときにでも」 ワルドは、席を立って、部屋の外へと出て行った。 ルージュは彼が立ち去った後も、ずっと部屋の出口を見ていた。 すると、ギーシュが入ってくる。そう言えば起きたときには既にいなかった。 「おや、そんな顔をして何かあったのかねブルー」 「……ちょっと寝覚めが悪かっただけです」 何事もなく、夜が訪れる。 酒場の一階で、通りの詩人の語る物語を聴いていた。 ギーシュ達はこの地では聞き慣れない物語を、 興味深そうに聞いていた。 「……いつしか、『ニューロード』と呼ばれるようになった」 そこで話は終わりらしい。 周囲からまばらな拍手が聞こえる。 その詩人は、次に歌を奏で始めた。 「しかし、明日出発だね」 「そうだな」 続いては来ない。元々、会話を期待してたわけでは無いようだった。 突如、悲鳴が上がった。そちらの方を見やると、火の手が上がっていた。 たいまつが転がっていて、どうやらそれが火の元らしい。 タバサとキュルケが俊敏に立ち上がる。 次いで飛んできた矢を、タバサが風を起こして防ぐ。 玄関を蹴破って入ってきた傭兵達を、キュルケが炎で吹き飛ばした。 「ぼーっとしてないで、机の下に隠れるなりなんなりしなさい!」 その言葉に、未だ呆然としていた他の客が隠れる。 階段の上から、ワルドとルイズが降りてきた。 「どうなってるの!?」 「この前の連中が、また来たって事でしょうね!」 「フーケも居たわ!」 「なら、確定的だな。アルビオンの貴族だろう」 そう言っている間にも、矢が降り注ぐ。 「どうするのよ、このままじゃジリ貧よ」 「僕に任せてくれ」 ギーシュが言う。キュルケはそれに対し、否定で返そうとしたが、 自信に満ちあふれたギーシュの顔を見て、口をつぐむ。 「なに、この場を逃げれば良いんだろう?」 そう言って、ギーシュが杖を振る。 何も起こった様子はない。 「あー、隠れてる方々、出来れば僕の言うように行動してくれんかね?」 傭兵達は、反撃が来なくなったのを見ると、 頃合いと見て、突入を開始した。 が、玄関を入ってすぐの場所で足を取られる。 「な、なんだ!?」 みると、足下がぐにゃりとしている。 どうやらメイジの内の一人が錬金でもしたのだろう。 だが、こんな物すぐに抜ければ……と、目の前にメイジが立っていた。 杖を振る。やばい、やれらたか……と思ったが、何も起こっていない。 はて?とりあえず、足を踏み出そうとするが動かない。 足元を見ると、先ほどまでぐにゃりとしていた床が、固まっていた。 「へ、だからどうしたっていうん……」 「後ろを見ろ」 「……?」 後ろを見てみる。 そこには、自分と同じように足を固定された仲間が大量にいた。 玄関がふさがれて、後続が突入することが出来ない。 外から声が聞こえる。 「窓から入れ!」 と、窓が剣や斧で破られ、そこから味方が入ろうとして……吹き飛ばされた。 さっきまでカウンターの下に隠れていた貴族達が杖を構えている。 「これで仕上げだ」 と、店長が少々でない怒りを含んだ声で言いながら、 油の入った鍋を窓だった穴に投げ込んだ。 ……油? 「やばい、お前達逃げろ――」 「『ファイア・ボール』!」 彼が叫びきるまえに、後ろにいた傭兵達から悲鳴と火の手が上がる。 パニックに陥ったのか、次々と逃げ出していく。 取り敢えず、悟った。 「……やっぱりメイジに勝てるわけ無いだろう」 ギーシュの出した案に、キュルケが修正を加えたあの作戦は成功したようだった。 傭兵達が逃げまどう。その隙に、ルージュ達は店から駆けだした。ワルドが叫ぶ。 「『桟橋』に急ぐぞ!奴らが体勢を立て直さぬうちに、アルビオンへ旅発つのだ!」 全員、うなずくことで返した。 遠くから音が聞こえてくる。まるで、巨大な何かが歩み寄ってくるような…… 「待ちな!逃がさないよ!」 フーケのゴーレムであった。右肩にフーケが乗っている。 キュルケが立ち止まる。それを見てブルーも立ち止まる。 「キュルケ!何してるのよ!?ブルーまで!」 「あのゴーレムを足止めするわ!」 「何を言って……」 「そっちの方が大事なんでしょ!あたしなんかに構わず行きなさいよ!」 「そう言うわけには――」 「『火』の本領は、破壊と情熱よ!あんなちゃちなゴーレム、どうって事無いわ!」 「構わない、行こうルイズ」 ワルドに言われると、ルイズは渋々ながらも走り去っていった。 キュルケはブルーに話しかける。 「何でダーリンまで残ったのかしら?」 「お前一人ではあのゴーレムの相手は無理だろう」 「そうさ、今度はあのガキもいないし、負けやしな――」 「『超 風』!」 超高熱の嵐が吹き荒れ、岩のゴーレムをあっという間に消し飛ばした。 「よし、後を追うぞ」 「……ダーリンって、凄いわね……」 そう言い、走り出そうとすると、 その先に、白い仮面の付けた男が居た。 「……ダーリン」 「ああ、あいつが傭兵を雇った奴のようだな」 男が杖を構える。 それをみて、キュルケとブルーも各々構える。 「『ファイア・ボール』!」 「『フラッシュファイア』!」 白い仮面の男に向けて放たれた炎は、 直前で男が起こした暴風によって弾かれる。 驚くべき事に、『フラッシュファイア』ですら真っ向からの暴風で受け止められる。 「なんだと?」 「……だめね、生半可な攻撃は風で弾かれちゃうわ」 「……なら……いや、しかし」 ブルーはなにやら悩んでいたが、 男が杖を再び振ろうとすると、ためらいを捨ててそれより早く、唱える。 「……『塔』!」 ブルーの魔力が放出される。 それは空に届くとさえ思うほど高くに昇る。 男はそれを見ると、暴風の防御壁を張り巡らせた。 空が光る。もはや雷と呼ぶのも相応しくない光の柱が、 空から落ちてきた。それは防御壁など無いかのように貫通する。 「なぁ―――!!?」 最後に上げかけた叫びは、 それだけで山を揺るがすような巨大な爆音にかき消された。 後には、消し炭一つ残らない。 「……まだ追いつけるかも知れん」 ブルーが走り出す。 キュルケは、顔を青ざめさせていた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7649.html
前ページゼロの使い魔人 「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくっているという盗賊か! 魔法学院にまで手を出しおって! 随分と舐められたもんじゃないか!」 「衛兵は一体、何をしていたんだね!?」 「衛兵なぞ当てにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴 族は誰だったんだね?」 ――多事多端な夜が明けたトリスティン魔法学院であったが、事態は何一 つ進展も沈静化もしていない。 むしろ火に油を注ぐというか、グダグダ化の一途を辿りつつあった。 現に今も、犯行現場となった宝物庫の前で雁首揃えた教師陣が騒ぎ立てて いるだけ。 これからどうするか、を論じるどころか、各々何ら意味を持たない雑言を 言いたい放題垂れ流し、そして責任を押し付けるべき相手を探し出す始末 である。 その槍玉に挙がったのは、本来なら不寝番として当直にあたるべきだった 中年の女性教師である。 「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなたなのではありませんか!」 と、さっそく教師陣の一人が金属的な喧しい声を張り上げ、吊るし上げに かかる。 問い詰められた側というと、ひとしきりおたおたして言い訳を並べた後で やおら俯き啜り泣きを初め、先の教師は嵩に掛かって難詰の勢いを強めて いた所。 「これこれ、そう女性を苛めるものではなかろうて」 緊張感やら謹厳さを欠いた口調と表情で、学院長である老魔術師がその場 に現れる。 「しかしですな! オールド・オスマン! 彼女は昨晩の当直でありなが ら、自室でぐうたら高鼾をかいていたのですぞ! その責任を問わないで、 どうするというのです!」 自分の言葉に興奮し、声量と勢いを強める教師に対し、オスマン氏はとい うと片手で髯を弄りながらその顔を眺めつつ、おもむろに口を開いた。 「まあ……、責任の所在はともかくとしてじゃな、一つ私からも皆に問お う。――彼女を責めてはおるが、ならばその当直の任をただの一度も休む 事なく、忠実に果たしたと胸を張って言える者は、諸君らの中におられる のかな?」 言いつつ、オスマン老が居並ぶ教師らを見回したのに対し、まともに視線 を合わせたり声を上げる者は無かった。例の教師も不本意そうに口元をも ぐつかせるに留まっている。 「さて、声ばかり大きいがこれが現実じゃな。この中の誰もが……、無論 私も含めてじゃが……、よもやこの魔法学院が賊に襲われるなどとは、夢 にも思っておらなんだ。此処にいるのは殆どがメイジじゃからな。誰が好 き好んで、竜の巣に潜り込むのかという訳じゃが……。いやはや、ごらん の有様だて」 オスマン老はまず教師達に、そして壁に穿たれた大穴へとその視線を移す。 「我々の油断と驕りじゃろう。それが賊をここに忍び込むのを許し、むざ むざ『破壊の杖』を奪われる事につながったのじゃ。責任があるとするな ら、我等全員にあるといえるじゃろう」 それを聞くや、それまで床にへたり込んで泣きじゃくるだけだったシュヴ ルーズ教諭はオスマン老に縋り付き、目やに下げた老はセクハラに走った りといった馬鹿な一幕があったものの、それはさておき……。 重々しさを装った咳払いの後、オスマン老は一同を見やる。 「――それで、犯行の現場を見ていたのは誰かね?」 「は。この三人です」 と、コルベール教諭がそれまで自分の脇に控えていたルイズにキュルケ、 そしてタバサらに前に出るよう促す。一応、龍麻も目撃者としてルイズの 背後に立ってはいたが、員数外と見做されていた。 「ふむ……。君たちか」 「……………」 オスマン老は、ルイズらを流し見たのに続いて龍麻に視線を止め――過去 の経験から、老獪な人物の言動やら雰囲気等に対して、些か用心を抱かざ るをえない心境にあるので――その視線に対し、龍麻は無表情を保つ。 「詳しく説明したまえ」 ルイズが一歩前に出ると、一部始終を述べる。 「あの、大きいゴーレムが現れて、此処の壁を壊したんです。肩に乗って た黒いメイジがこの宝物庫の中から何かを……、その『破壊の杖』だと思 いますけど……、盗み出した後、またゴーレムの肩に乗りました。ゴーレ ムは城壁を越えて歩き出して……、最後には崩れて土に戻ってしまいまし た」 「それで?」 「後には、土しかありませんでした。回りを捜しまわってはみたんですけ ど、肩に乗っていた黒いメイジは、影も形もなくなっていました」 報告を聞き終え、オスマン老は唸り声を洩らしつつ、顎鬚をしごく。 「後を追おうにも手掛かりはナシ、という訳か……」 呟いていた折、ふと何かに気付いたか手を止めて、周りを見回した。 「所で、ミス・ロングビルはどうしたかね?」 「それがその……、朝から姿が見えませんので」 「この非常時に、何処に行ったのじゃ」 「ええ、どうしたんでしょうか……」 等と話していた所に、よく通る声で「済みません」や「通してください 」といった言葉が人垣越しに聞こえた後、件の女性が一同の前に現れた。 彼女に向かい、泡を食って事の大きさをまくしたてるコルベールだった が、それには同調せず儀礼的に一礼しつつ、上司たる学院長に向き直る。 「遅れて申し訳ありません。朝から急ぎ調査をしておりましたの」 「調査?」 「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして宝物 庫はこのとおり。壁に書かれたフーケのサインを見つけたので、これが 国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査に掛 かりました」 「仕事が速いのう。ミス・ロングビル」 オスマン学院長が呟く横で、コルベールが忙しなげな調子で続きを促す。 「で、結果は?」 「はい。フーケの居所がわかりました」 それを聞いてコルベールが調子っ外れな声を上げたのを皮切りに、周り の面子も色めき立つ。 「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」 「はい。近在の農民に聞き及んだ所、近くの森の廃屋に入っていった黒 ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、その廃 屋はフーケの隠れ家ではないかと」 「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」 其処まで聞いて、ルイズが声を張り上げる横で、学院長は目を細めて表 情を引き締める。 「そこは近いのかね?」 「はい。徒歩では半日。馬なら四時間といった所でしょうか」 続く説明を聞きながら、龍麻の表情に思惟と不審の色が浮かんでは消え ていく。 ――だが。一介の平民でしかも使い魔に過ぎない彼を顧みたり、表情の変化 に気付いた者はこの場には居なかった……。 「すぐに王宮に報告しましょう! 王室直属の魔法衛士隊に頼んで、追 っ手を差し向けてもらわなければ!」 勢い込んで叫ぶコルベールだが、言い終わらぬ間に倍するボリュームで オスマン氏の怒声が響き渡った。 「馬鹿者! 王宮なぞに知らせている間にき奴めは逃げおおせてしまう わ! その上……身に掛かる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 我が学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我等で 解決する!」 老魔術師は昂然たる口調と態度で宣言すると、咳払いに続いて教師陣一 同を見回す。 「では、この中より捜索隊を選抜するが……。我こそはと思う者は杖を 掲げよ」 その声が聞こえない訳が無いだろうに、先程までの剣幕は何処へやら。 それに応じようとする者は現れない。 「おらぬのか? おや? どうした! かの者を捕らえ、名を挙げよう と思う気概を持つ貴族はおらぬのか?」 静まりかえる中、学院長の声ばかりが響く。 学院長からの視線を向けられるとさり気無く、或いは露骨に上や下を向 く者を初め、無言で隣や前後の同僚と非友好的な押し付け合いをしてる 奴、黙ったまま熟慮している様に見(せかけてる)える手合い……。 (日和見かよ……。ま、名を挙げるより恥を掻きたくない。何より、大 言壮語して出張ったものの、取り逃がしたり返り討ちに遭った挙句、一 連の責任おっ被せられて干されちゃかなわん……。ってのが本音だろ うな) 先程の情報の中身について思案しながら周りを観察し、内心で意地の悪 い推論を龍麻が出したその時。 龍麻の前に立ち、其れまでずっと無言で頭を垂れていたストロベリーブ ロンドの少女が、その手に握り締めた杖を挙げた。 「ミス・ヴァリエール! 何をしているのです!? あなたは生徒では ありませんか! ここは教師にまかせて……」 「誰もあげないじゃないですか」 ルイズの行動に、シュヴルーズ教諭が驚き半分、後は懸念と諫止混じり の声を出したが、その“常識論”はルイズのさして大きくもないがはっ きりとした口調で切り返しに遭い、ぐうの音も出ず黙りこくる。 そしてそれ以外の教師連中はと言うと、ならば自分が行く……どころか、 何やら険のある視線と雰囲気を湛えて、一躍注目の的となった少女を見 やる。 と。その横で、また一つ杖が頭上に掲げられた。 「ツェルプストー! 君もかね!?」 意外さを隠さぬコルベール教諭の声に、キュルケは煩わしそうに前髪を 掻き上げながら答える。 「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」 そう啖呵を切った彼女の横で、更に杖を掲げる者が現れる。 「タバサ。あんたこそいいのよ。関係ないんだから」 傍らに立つ小柄な人影に向かい、キュルケが気遣うように声を掛けたの に、抑揚の無い声で答える。 「心配」 その声に感極まった様な表情を浮かべるキュルケ。やや遅れて、ルイズ もタバサの方に向き直り、ぎこちない笑みと共に礼を述べる 「ありがとう……。タバサ……」 (――考えてみりゃ、昔の俺達と今のこいつらがやろうとしてる事は、 大して変わらんじゃないか……。今にして思えば本当バカやってたと いうか、俺達を見てた天野さんやマリア先生辺りがどんな気持ちでい たか、解ったような気がする……) もし、時間を遡行する事が叶えば、当時の自分を思い切り張り倒して いただろうなと、龍麻は内心で猛省しつつ、一人バツの悪い思いをす る羽目になった。 ともあれ、目の前で繰り広げられる『誠に心暖まるやり取り』を見 やって、老魔術 師は髯を震わせて笑う。 「そうか。では君らに任せるとしようか」 「オールド・オスマン! わたしは賛成できません! 生徒たちをそ んな危険に晒す訳には!」 「ならば、君が行くかね? ミセス・シュヴルーズ?」 「い、いえ……、わたしは、こういった争いごとには経験がございま せんので……」 先程の女性教師が抗議の意を示したものの、矛先が自分に向けられる や、たちまち尻込みし、隅に引っ込んでしまう。 「彼女達は、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴ ァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」 それを聞いてキュルケやルイズは元より、教師連中までもが一様に驚 きと興味を込めた眼差しを向けるが、当人は表立った反応を示さず黙 然と立ち尽くしているばかりである。 「ミス・ツェルプストーも、ゲルマニアの優秀な軍人を多く輩出した 家系の出であり、彼女自身も炎の魔法に於いては、衆に抜きん出た腕 前を持つとの話じゃがのう」 社交辞令もあるだろうが、聞こえの良い語句を並べられ、キュルケは 自慢気に髪を掻き上げる。 そして、オスマン老の視線がルイズに移ると、褒められるのがさも当 然の様に当人は胸をそびやかすものの。 まず、さり気無く視線がルイズから逸れ、表情と表現の選択に難儀す る様な沈黙の後。 「その……、ミス・ヴァリエールは旧くは王室に繋がるヴァリエール 公爵家の息女であり、あー、その、なんだ、将来を嘱望されるメイジ だと聞き及んでおるが?しかも従える使い魔は……、平民でありなが らあのグラモン元帥の子息である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘し、 勝ったという噂だが」 しどろもどろな口調で話している所へ、横からコルベールが勢いこん で口を挟む。 「そうですぞ! 何せ、彼はガンダール……っっっ!?」 言い終るより早く、学院長が手にした杖がコルベール教諭の向う脛を 目立たぬ程度に強打し、彼は場所ならぬ舞踏を一人で演じる事となっ た。 そして咳払いの後、その場にいる全ての人間に向かい、オスマン学院 長は厳かともいえる声を発した。 「謙遜は無用じゃ。この三人に勝てるといえる者がいるのならば、前 に一歩出たまえ」 あの、責任云々を五月蝿く騒ぎ散らしてた教師も含めて、誰一人とし て学院長に異議を表す者は出なかった。 (ダメだこりゃ……。こんだけの大事があったってのに、いい歳こい ててしかも学院から給料貰ってる大人が誰一人動かない時点で、自分 等には身に掛かる火の粉を払う様な覚悟に意欲なぞ無いと、証明して るような物だろこれは……) 「我が学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 ルイズ以下の三人は、生真面目な表情を作り姿勢を正し「杖にかけて !」と、同時に唱和するとスカートの裾を摘み上げ、恭しく例をする その後ろで。 龍麻も一応、儀礼的に頭を下げる事でそれっぽく見せたが、それは己 の表情を他者に見せない為であり、その心境は暗澹たるものであった。 もし人目が無ければ、片手で顔を覆って大仰な溜息をついていた事だ ろう。 (酷ェ話だ……。事態の収拾を自分らの子供とさして変わらんだろう、 生徒数人に丸投げしやがったよ……。よくそれで他人に対して、努力 と義務を期待するだなんて言えるなぁ……) 「うむ。では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的 地に着くまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」 「はい。オールド・オスマン」 「彼女たちを手伝ってやってくれ」 脇に控える、自身の秘書に向かい指示を出す。 同行する以上、魔術師同士の戦いに巻き込まれる可能性と危険は大有 りだろうに、彼女はたじろいだり不平の色をまるで見せず、当たり前 のように頭を下げる。 「もとからそのつもりですわ」 ――それから数十分後。 四人は案内役であるミス・ロングビルが操る馬車の客となっていた。 尤も、馬車といっても屋根も座席もない荷馬車みたいなものだったが。 ……不意打ちなどがあった場合、即座に降りて対応出来るようにとい う考えの下である。 一行の間に物見遊山みたいな雰囲気は無く。ルイズは手にした杖をい じくり、タバサは分厚い本から一時も目を離さず、龍麻も毎度の結跏 趺坐の姿勢による錬氣を行っていた。 「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょう?」 「ええ。ですが、オスマン氏は貴族だ平民だという事に、あまり拘ら ないお方ですから」 そして、やはり無聊を囲っていたキュルケは手綱を握っているミス・ ロングビルに何のかのと話しかけていた。 「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」 その話が、ミス・ロングビル個人の事に関わる流れになるにつれその 口数が減っていくのとは逆に、キュルケは興味の色も露わに言い寄ろ うとするがルイズがその肩を掴んで引き戻す。 「何よ。ヴァリエール」 「よしなさいよ。昔の事を根掘り葉掘り聞くなんて」 気分を害した表情を見せるキュルケに、ルイズもつっけんどんな声で やり返す。 「暇だからお喋りしようとしただけじゃないの」 「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくない事を無理 やり聞き出うとするのはトリステインじゃ恥ずべき事なのよ」 それに対して、直接言い返そうとはせず。キュルケはふん、と小さく 鼻を鳴し頭の後ろで手を組むと、荷台の柵に背中を預けた。 「ったく……、あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が 悲しくて、泥棒退治なんか……」 厭味をたっぷり含ませ、聞こえよがしにぼやくキュルケを、ルイズは ジト目で睨む。 「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」 「あんた一人じゃ、ヒユウが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」 「どういう意味よ?」 「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して 後ろから見てるだけでしょ? ヒユウ一人を戦わせて自分は高みの見 物。そうでしょう?」 (そうしてくれた方がずっと有難いけどな。ほぼ丸腰、実戦経験無し の人間に、「偉い奴こそ、一番に危険に立ち向かわなければならん」 なんつー戯言を馬鹿正直に実行されて、引き際や周囲の状況も顧みず 前に出てこられちゃ、堪ったもんじゃ無い) 「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」 「魔法? 誰の? 笑わせないでくれる!」 副音声で龍麻が呟く一方で、昨晩の舌戦が時間と場所を変え、再戦 の兆しを見せ出した。 「お前ら、かなり良家(いいトコ)の出なのに、二人して街中のガキ レベルの喧嘩するなよ……。それ人前でやれば、品格疑われるぞ。只 でさえ、色々気に食わない事があるってのに……」 聞くに堪えかねた龍麻が厭々ながら口を挟んだが、それはルイズの癇 癪を爆発させただけだった。 「何が気に入らない、よ! いい? あんたはわたしの使い魔よ! ご主人様に従うのが当然じゃないのよ!」 「……ちょっと落ち着いてくれ。俺が気に入らないってのは、そもそ もこの任務(クエスト)が実行される切っ掛けになった情報について の事で、あんたの護衛仕事が嫌なんじゃない」 手で押さえろ、という風な仕草をしながら話を続けようとした矢先に、 「それってどういう事よ?」 「それは、わたくしの話が信じられない、とでも言いたいのですか?」 畳み掛ける様に、ルイズとミス・ロングビルが口を挟んでくる。 「凄く長いが、それも含めて説明する。この件な、俺が駆け出しの頃 に関わった事件に似てる点があるし、考えてみたら状況的に噛み合わ ない事だらけでな……」 一旦、言葉を切るとそこから立て水の如く話し出す。 「昔、俺が通っていた学校にある競技で、優勝候補に挙げられるチー ムがあってな。そして近々大会が開かれようという次期のある日。そ この主力メンバー数名が、時間も場所もバラバラだが、一晩のうちに 襲われて大怪我をしたんだ。 不意の事で、反撃どころか犯人の人相や数に凶器とかも解らないまま、 一方的にやられたんでまともな手掛かりもロクに無いと来た。物盗り でもないし、誰かが恨みでも買ってたか? って線から地道に犯人捜 しに掛かろうって時に、現場にボタンが一つ落ちてた。 それも……、同じ大会に出る予定があって、もう一つの優勝候補と目 された学校の紋章が彫られた奴がな」 「ちょっと、それって……?」 「そ。単純に考えれば、ライバルを事前に蹴落として確実に勝つ……。 って言う事なんだろうが……、考えてみろ。『争った形跡は無いのに』 何故、『被害者達のモノ』じゃないボタンがその現場に落ちてたんだ? 普通、軽く引っ張った程度で取れる様な物じゃないぞ」 と、龍麻は皆に見えるように自分の服を捲り上げ、付いたボタンを指 で突いてみせる。 「第一、対抗馬がマトモじゃないやり方でコケた事で、真っ先に疑わ れるのは何処の誰だ? 仮にそのまま優勝できたとしても、不正がバ レた日にゃ団体にはキツい処分が下され、選手はそれで身を立てる事 は難しくなり、更には卑怯者の恥知らずとして延々と侮蔑と嘲笑の的 になり続ける……。ンな割に合わない事を本気でやらかす莫迦がいる か? ……実際、調べたら当の団体は全くの無実で、真犯人は外部の 人間だったけどな」 「……それで、あんたの昔話とこの事件が、どう関係するのよ?」 「確認するぞ。『朝から聞き込みに走って、近在の農民から、近くの 森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの“男”を見た』と、いう 話を持ち帰ったんでしたっけ? ロングビルさん」 「はい。その通りです。……それの何がおかしいのですか?」 彼女が頷くのを見て、龍麻はルイズを指差した。 「そして黒ずくめのローブを着てたって話だけで、フーケに違いない と、お前は決め付けたけどな。――黒ずくめのローブを引っ被ってた のに、目撃した奴はなんで男と解ったんだ? 歩幅や体格か? 声を 聞いた? さては容姿を目にした? 最後だとしたら、何でその詳細 が解らず、それを聞こうとしなかった? 昨日の晩は月が出て割と明 るかったが、名うての魔術師で泥棒な奴を相手に、只の農民がそうい うのが解る距離まで近寄れて、相手が無防備にそれを許したって状況 自体が凡そ信じられない。 もし、黒のローブを引っ被ってりゃフーケになる、つーなら何だ。昨 日の晩、あのデカブツを潰して俺達を撒いた後で、アレ作るのに要る だろう何分の一かの力で、以前のギーシュみたく等身大のシロモノを 作ってから、そいつにボロ布被せて力尽きる迄適当に歩かせるか、予 め小金掴ませて集めた町のチンピラヤクザにやっぱボロ布被せて、目 立つように彷徨つかせて囮にしてる間に本人は正反対の方角へ、逃げ 出すぐらいの事はやるだろうに。 で、特におかしいのが、その『目撃者』をじっとアジトらしいトコま でついて来させて、そのまま何一つ手を出さずに戻る事を只見過ごし た点だ。考えるまでも無く、命取りになりかねん事であって、そいつ がその足で官憲にタレ込んだ物なら、即追っ手が向けられて人生終了 のお知らせだ。 そもそも、素人に尾行けられてる事にさえ気付かないほど無用心で間 抜けな奴なら、城下町で噂になるまでも無くとっ捕まってるんじゃな いか?」 水が欲しいなと思いつつ、龍麻は速射砲の如く腑に落ちない点を列挙 していき、纏めに掛かる。 「ちょい私見も混じったけど、ともかく似てる点を挙げるとな……、 突然の事で、犯人を捜そうにも手掛かりは殆ど無く、手探りで始めな きゃならん所に、上手い事情報が転がり込んで来た。……けれど、だ。 情報の中身ときたらより犯人を絞り込むのに要る……さっき言った様 な……『次に』繋がる手掛かりの部分がすっぽり抜け落ちてるのに、 そのくせ単に聞くだけならこっちが欲しいモノ……動向や所在……が みな揃ってて、有力な手掛かりに思える。そう。都合よく答えが『与 えられてる』といった感じだ。 そういう点から見るとな。どうも、この目撃談は何らかの目的を持っ て、情報を得た側の行動や思考を一定の方向へと誘導させる様な意図 を含んでる様に思える。 『例えば』、手頃な情報をちらつかせる事で、俺達とその疑いを向け られた団体との間に不信を抱かせて、互いを潰し合わせようと企んだ 奴みたいに、な。 本当なら、その農民だけじゃなくもっと広範に情報を集めて、摺り合 わせる事で話の裏付けを取るべきなんだ。こうやって人手出す前にな。 ……正直、かなり罠臭いというか、最悪その目撃した奴自身がフーケ とつるんでいて、先の話をする様に予め仕込まれてんではないか…… っていう、可能性も有るんだ」 「……あんたねぇ。そんなんじゃ間に合わないって、オールド・オス マンがいってたでしょうが! いい? 使い魔なら使い魔らしく、そ のお喋りな口を閉じて、ただついて来ればいいのよ!!」 「けどな。これ以外にも馬で数時間、徒歩で半日って場所まで行った って割にゃ、朝起きて異変を知ってから調べに向かい、学院へと戻っ て来るのが早すぎだろう?その農民に、そして情報を持って帰ってき た当人もだ。この辺もまた、引っかかるじゃないか……」 「黙りなさい、といったでしょ! なによ、延々ともっともらしい事 を言ってるようで、実はねちねちミス・ロングビルの揚げ足取ってる だけじゃないのよ!」 ルイズは怒鳴り散らしながら立ち上がると、尚も食い下がる龍麻の鼻 先に杖を突き付け、権高に言い立てる。 「…………」 これはもう、どんなに下手に出ようとも以後の話は聞いて貰えはしな い、と見て取った龍麻は止む無く口を閉じる。 (参ったな……。そりゃ、推論ばかりで他人を納得させられるだけの 根拠に欠けるのは確かだけどな。だからって、この“情報”を鵜呑み にして、誰も内容や真偽について考えようとしないってのは、危なす ぎるぞ……) 己が見解を上手く周りに納得させられない、自身の迂闊さ加減に内心 嘆息しつつ、龍麻は片手でがしがし頭髪を掻き回す。 ――緩慢に揺れる馬車から見える、ただっ広い平原に小川。遠くに望 む山並みに雑然とした森林。たまに鳥の鳴き声。 牧歌的な風景といえば聞こえが良いが、実の所変化に乏しい単調な光 景に皆がいい加減飽き掛けた頃に馬車は街道を外れ、雑木林沿いに伸 びる細い脇道へと進路を変え。 やがて……その道は、生い茂る樹々の中に通じる人一人がどうにか通 れるといった感じのモノへと変わって行く。 「ここから先は、徒歩で行きましょう」 案内役の彼女の声に従い、馬車から降りた一同は森の更に奥へと足を 踏み入れる。 昼なお暗い鬱蒼とした森は人を拒むかのように静まり返り、木立に遮 られて陽光も充分に差し込まず、見通しはかなり悪い。 (真昼間でこれなら、夜は完全に闇一色だ。こんなトコで明かりを焚 きゃ一発で存在がバレるし、少々夜目が利こうと月や星明りだけを当 てにして歩くにも限度が有るぞ。これでどうやって気付かれずに、後 を尾行けるっていうんだ……?) 周囲の状況を観察し、龍麻が先の「証言」の信憑性に対する猜疑の念 をますます強めていた所に。 「なんか、暗くて怖いわ……、いやだ……」 そんな事を口にしつつ、キュルケは龍麻の腕に自分のそれを絡めて来 たが、それを素気無く振り払う。 「利き手を塞ぐな。いざという時に反応が遅れる」 「だってー、すごくー、こわいんだものー」 一本調子な声に、全く恐怖や怯えの色が無い表情で言われても、説得 力に欠けるという物だろう。 「お手々繋いで仲良しこよしがしたいなら、俺じゃなく他の三人とや ってくれ。そもそも、ンな事してる場合じゃないだろ」 つっけんどんな声で答える間にも、下生えや梢の合間を始め全周に視 線をやるのを止めない。 得物こそ構えてないが龍麻の精神に肉体も既に臨戦態勢に入っており、 不急不要の事に気を回してはいられないのだ。 ――誰も積極的に話そうとしない雰囲気の中、更に歩き続ける一行の 前の視界が急に開けた。 行く手には、サッカー場一枚程の広さを持つ更地があり、そこにひっ そりと吹けば飛ぶような小さいあばら家が佇んでおり、それと隣りあ う様に炭焼き用と思しき窯や、半ば壊れかけた納屋が建っている。 「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるそうです」 ひとまず、小屋に近い茂みに身を隠すルイズ以下五人。そして、ミス・ ロングビルは隙間から廃屋を指差して見せる。 「……で。今の所、目立った動きは無いけど、どう攻める? いっそ、 妙なマネされる前に此処から全員で一斉に魔術ぶっ放して、問答無用 で小屋ごと吹っ飛ばすか?」 相手がまだ、あの場所にいると仮定して対応を話し合う。 無論本気ではないが、極論を最初にぶち上げる事で、場の反応を引き 出そうとした龍麻に、一同から白い目が向けられはしたが。 続いてタバサが出した策は……、一名が先行して中の様子を探り、も しフーケが居れば挑発なり威嚇攻撃を仕掛け、フーケを屋外へと引っ 張り出す。しかる後、奴が例の巨大ゴーレムを作り出す前に全員が一 斉攻撃を浴びせ、仕留める……。と、いった内容であった。 「他に意見の有る者は? ……仮に其れで行くとして、肝心の“火中 の栗”拾う役は誰だよ?」 当然の疑問を龍麻は口にし、タバサはそれに答えて曰く、「すばしっ こいの」。 四対の視線が、一斉に一名……自分から地雷踏みに行った粗忽者…… を刺し貫く。 「やっぱ俺かい。……肉体運動に頭脳労働もやって、ギャラは同じ…… どころか無し。やってられんね」 前世紀のギャグを口にしつつ、手短に以後の段取りを付けてから中腰で 立ち上がると極力姿を見せぬ様、周囲の木々に紛れながら龍麻は小屋ま での距離を詰める。 ――相手が此処に居るという情報自体が眉唾物だし、又は何らかの魔術 で鳴子みたいな仕掛けが用意されていて、既に自分らの存在が筒抜けに なっているかも知れないが、其れでも正面からノコノコ近寄る様な真似 は憚られたのだ。 身を低くして力を溜め、物陰から一気に飛び出す。そのまま小屋の外壁 に取り付くと、身を寄せて内部の気配を探る。 ……数秒後。匍匐で窓へとにじり寄ると、キュルケから借りた手鏡を使 い室中の様子を映し見る。 ――薄汚れた床と、粗末な椅子とテーブル。表面には随分と埃が溜まっ ており、長らく人の手が入ってない事が伺える。 部屋の隅には朽ちた暖炉と、やはり腐りかけた薪が無造作に置かれ、空 の酒瓶が数本転がっている。それ以外には……、木で作られた雑具箱が 有るぐらいか。 室内には人どころか鼠一匹居らず、身を隠せるような場所も見受けられ ない。 (空城、か。こっちの行動が遅きに失したっていう線も完全には消えち ゃないが、やっぱガセネタ掴まされたかね……。これで手ぶらで帰った 日にゃ、日和見ってた奴らがこれ幸いとばかりに叩きにくるだろうな……) 皆がいる方へと向き直り、片手を挙げて先に決めた手筈通りに合図を送 ると物陰に潜んでいた面々が、おっかなびっくりな様子で近寄ってくる。 「空振りだ。まあ、魔術で何か『置き土産』を用意している可能性もあ るが、俺には解らん」 タバサが前に出ると、短い詠唱に続いてドアに向かい杖を振る。 「ワナはないみたい」 呟くとドアに手を掛け、中へと滑り込む。 「わたしは外で見張ってるわ」 「それなら、わたくしは周りを偵察してきます」 ルイズに続き、ロングビルも言うなりそそくさと動き出す。 「待った。単身では拙い。誰かと一緒に行動した方がいいのでは?」 その背中に向かって、龍麻は声を掛けたものの彼女は、顔だけを向けて 小さく笑っただけで、そのまま森へと入ってしまった。 そして、その場に残った面子はフーケがいた痕跡なり、手掛かりを見つ ける為の家捜しに取り掛かったが。 「破壊の杖」 どれ程もしない内に、いきなりタバサが『当たり』を引いた。 あの雑具箱に押し込まれていた件の一品を手にすると、皆に見える様に 頭上に掲げたのだ。 「あっけないわね!」 拍子抜けした表情でキュルケが叫び、 「――おかし過ぎる。あれだけ荒っぽい真似をしてまで奪ったモノを、 本人が不在なのにまるで隠そうとせず、どうぞ見つけて下さいとばかり に放置するか普通? こんな真似をして、野郎に一体どんな得が有るっ ていうんだ?」 予想の斜め上を行く現況に、深刻な疑義を抱きぶつぶつ独り言をこぼす 龍麻だったが、それも『破壊の杖』を見るや雲散霧消してしまった。 「……………。って、二人共。まさかと思うが、そいつが『破壊の杖』 で間違い無いのか?」 「そうよ。あたし、見た事あるもん。宝物庫を見学したとき」 目を“それ”に釘付けにしたまま、唖然とした面持ちで尋ねる龍麻に、 キュルケは頷き答える。 (いや待て。慌てるな。まだ本物だという確証は無いぞ。というか、 何でまたこんな危険ブツが、こんなトコに宝物扱いで伝わってるんだ !? 冗談にしても性質が悪す……) 「きゃぁあああああ!」 だがしかし。背後から俄かに響き渡った悲鳴に、この場で一人思考の 淵に居座る様な暇は与えられなかった。 「―――ッ!?」 反射的に顔を上げ、片足を軸に入り口側に振り返った瞬間。落雷の様 な異音と共に、小屋の屋根自体がごっそり吹き飛び、撃砕された。 細かい破片と塵埃が落ちかかる中、垣間見える程々に晴れた空。 そして――。視界を覆いつくさんばかりに屹立する影は、全員が見知 ったるモノだった。 前ページゼロの使い魔人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9389.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十九話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その2)」 変身怪人ゼットン星人 恐怖の怪獣軍団 友好珍獣ピグモン 登場 未完のまま筆が途絶え、自身の完結を求めて魔力を得た『古き本』の中に精神を囚われたルイズ。 才人は彼女を救うべく、リーヴルの力を借りて本の世界へと旅立った。――そこは初代ウルトラマンが、 ゼットンに敗れた後も地球に残り続けたifの世界。そこではウルトラマンことハヤタが敗戦のトラウマ から不調になり、失意にどん底に陥っていた。才人とゼロは、ウルトラマンを立ち上がらせてこの本の 世界を完結に導くことが出来るのだろうか。 野山を覆う緑の山林の中で、この本の主人公であり本来の『ウルトラマン』であるハヤタと、 現実世界から闖入者たるイレギュラーの『ウルトラマン』のゼロと才人が向かい合った。まずは ハヤタの方が先に口を開く。 「君が……さっきのウルトラマンだね?」 才人はうなずいて答える。 「ええ。平賀才人……ウルトラマンゼロと言います。はじめまして、ハヤタさん」 この本の中では、ハヤタことウルトラマンはゼロのことを存じていないようだ。それも無理の ないことかもしれない。本がいつ頃執筆されたかは知らないが、地球ではゼロの存在はかなり 最近になってから、惑星ボリスとハマー、怪獣墓場から生還したZAPクルーの報告によって知られた もの。それ以前に書かれたのならば、たとえ『ウルトラマン』でもゼロのことを認知するのは 不可能。本の世界は、本来は作者の情報がその全てなのだ。 さて才人が肯定すると、ハヤタは自嘲するように苦笑を浮かべた。 「そうか……。最近科特隊に活躍を奪われがちだったところに、僕以外のウルトラマンが 現れたなら、ますます僕はお払い箱だな」 才人はそのひと言に若干慌てる。 「お払い箱だなんてこと……! 『この』地球を守ってきたのはあなたじゃないですか」 「そんなことは関係ないさ……。どんな実績を打ち立ててこようとも、現在に怪獣に勝てず、 地球を守れない弱いヒーローなんて誰からも求められないよ。これを機に、僕は引退する べきなのかもしれない」 かなり弱々しいことを吐くハヤタ。昨今のスランプがよほど精神に応えているようである。 すると才人は、語気をやや強めてハヤタに告げた。 「そんな情けないこと、言わないで下さいッ!」 「え……」 ハヤタの顔をまっすぐ見据え、熱意を込めて説く。 「あなたは地球に現れた、最初のスーパーヒーローだ。世界中の子供たちは、みんなあなたの 勇敢に戦う姿に勇気をもらい、憧れた。俺もその一人です。あなたの存在はたくさんの人に 夢を与えた……いや、与えてるんだ。あなたは不朽のヒーローなんです!」 この応援のメッセージは、本を完結させるためだけのものではない。才人は本当に、地球を 何度も救ってきたウルトラ戦士の歴史の始まりとなった最初のウルトラマンに、強い憧れの心を 抱いて育った。だからたとえ本の登場人物でも、そのウルトラマンが弱っているのを放っておく ことは出来ないのだ。 「ヒーローに、別の誰かがいるから必要ないなんてことはありません。今は落ち込んでても、 あなたは偉大な戦士なんだ。どうかもう一度立ち上がって、今までのように俺たちに夢と希望を 与えて下さい!」 「平賀君……」 果たして才人の気持ちは、ハヤタの心を動かすことが出来たのか。 その答えが出る前に、ハヤタの流星バッジが着信を知らせた。ハヤタはすぐにアンテナを伸ばした。 「すまない。こちらハヤタ!」 『ハヤタ、今どこにいる! たった今防衛隊から、謎の円盤群が日本上空に侵入したとの 連絡とともに出動要請が入った。直ちに迎撃するぞ! すぐにビートルまで戻れ!』 「了解!」 ムラマツに応答してアンテナを戻したハヤタが、才人に向き直る。 「悪いが、僕は行かなくてはいけない。話はまた後にしてくれ」 「分かりました。どうか、頑張って下さい!」 才人の呼びかけに、ハヤタは迷いを顔に浮かべながらも、科特隊式の敬礼で応じて走り 去っていった。 それから才人は、ゼロの千里眼によって科特隊に先んじて件の円盤群の光景をキャッチした。 『……こいつはゼットン星人の円盤だ!』 「ゼットン星人って言うと、あのゼットンを最初にもたらした……!」 現在の地球において、ゼットンの名を知らぬ者などいないだろう。当時無敵と思われた ウルトラマンを完敗せしめ、世界中の人間に衝撃を与えた恐るべき宇宙恐竜。色んな教科書に その名前が載っている、世界一有名な怪獣だ。 そのゼットンを最初に侵略兵器として地球に連れてきたのが、『ゼットン』という言葉が 出身星の名前にまでなっているゼットン星人だ。 『ゼットン星人はもう一つ、変身能力による破壊工作が得意だ』 「破壊工作……科特隊が円盤迎撃に出たのなら、基地はがら空きだよな」 『ああ。嫌な予感がするぜ。俺たちは基地の方に向かおう!』 「よっしゃ!」 ゼロと相談し、才人は科特隊基地へ向かって駆け出した。 ルイズを通信士として基地に残し、科特隊自慢の万能戦闘機、ジェットビートル二機で 出撃したハヤタたちは、ゼットン星人の円盤群と会敵していた。 「おいでなすったなぁ。円盤発見!」 『直ちに攻撃開始!』 ムラマツの指示により、ジェットビートルは光線を発射して円盤に攻撃を加える。 だが光線は円盤をすり抜けてしまう! 「どうなってやがるんだ!?」 何度攻撃しても結果は同じ。ハヤタはこの円盤のカラクリを見抜いた。 「キャップ、あの円盤は何者かの罠です。多分、立体映像なんです!」 「おい、それじゃ本部は!」 ビートルは本部の危機を察し、慌てて引き返していった。 才人が科特隊の基地にたどり着いた時、上の階に行くほど幅が広がっていく独特な建築の ビルの窓の一つから、黒い煙が立ち上るのを目にすることになった。恐らく作戦室だ。 『まずい! ひと足遅かったか!』 「ルイズは無事なのか!? くそッ!」 ルイズが犠牲になってしまったら最悪だ。才人は全速力で基地に入り込み、階段を駆け上がって 作戦室にたどり着いた。 そこでは科学者の男性が、光線銃を用いて科特隊本部のコンピューターを破壊していた。 その足元には、倒れているルイズの姿。 「ルイズッ! こんのやろぉーッ!」 煙に巻かれる作戦室の中、激昂した才人が踏み込んで、男を殴り飛ばした。男は突然の 攻撃に驚いたか、すぐに作戦室を抜け出して逃げていく。 才人は先にルイズを介抱して、無事を確認する。 「ルイズ、無事か! ……よかった、息はしてる」 「う、うぅん……」 才人に抱き起こされたルイズの意識が戻った。 「大丈夫か?」 「大丈夫かって……あなたは誰なの!? ここは科特隊本部よ、子供がどうやって入ったの?」 お前も子供だろ、と言いかけた才人だが、今のルイズはフジ隊員の役になり切っているのだ。 そんなことを言ってもしょうがない。 「えーっと……俺は風来坊さ。科特隊の危機を察知して、助けに来たんだ」 「風来坊? 助けてくれたのはありがたいけれど、冗談言ってないで避難しなさい。ここは危ないわ」 ルイズが自力で立つと、ちょうど本部に帰投したハヤタたちが駆け込んできた。 「フジ隊員、どこだ!? ……ややッ、君は誰だ!?」 「君はさっきの……!」 イデたちは見慣れぬ才人の姿に面食らっていた。ルイズは彼らに告げる。 「この子は誰だか知らないけれど、わたしを助けてくれたの。それより、犯人は岩本博士よ!」 「そうだった、捕まえないと!」 「お、おい君ぃ! 一体何なんだ!?」 才人が逃げた男を捜しに飛び出していく。その背中を追いかけていくアラシたち。 男は科特隊基地から外に逃げ出したところだった。それを発見した才人が速度を上げ、 距離を縮めて飛びかかる。 「待てぇー! とおッ!」 タックルした才人に足を掴まれ、男は前のめりに倒れた。 「この野郎、正体を見せろ!」 才人の要求に応じるように、男はケムール人に酷似した真の顔を晒して立ち上がった。 これがゼットン星人だ。 この時にハヤタ、ムラマツ、アラシが才人に追いついてきた。 「はぁッ!? 君、危ない!」 ムラマツとアラシがゼットン星人から才人をかばい、ハヤタがマルス133をゼットン星人の 顔面に向けて発射。 「グ……グオオ……!」 その一撃により、ゼットン星人はもがき苦しみながら消滅していった。 しかし今際の断末魔が、怪獣軍団総攻撃の合図だった! 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 東京奥多摩の丘陵を突き破り、レッドキングが出現! 驚き逃げ惑う人々に狙いをつけ、 襲い掛かり始める。 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 「ギャアアオオオォォウ!」 「ゲエエオオオオオオ!」 それに続いて有翼怪獣チャンドラー、地底怪獣マグラー、冷凍怪獣ギガスまで出現した。 怪獣たちはレッドキングが総大将となり、人間に牙を剥く! 怪獣出現の報を受けたムラマツは、部下たちに命令を発する。 「出動準備! 直ちにビートルで現場に向かうぞ!」 「しかしキャップ、この子はどうします?」 イデが才人を一瞥して尋ねた。 「今は怪獣撃滅の方が最優先だ。すぐに発進だ!」 「了解!」 ムラマツ、アラシ、イデの順にビートルへ向けて駆けていく科特隊。ハヤタだけは複雑な 眼差しを才人に注いでいたが、前を向いてムラマツたちの後に続いていった。 彼らを見送った才人は、颯爽とウルトラゼロアイを取り出す。 「行くぜ、ゼロ!」 『ああ! ウルトラマンが再起するまで、俺たちが物語を支えなくっちゃな!』 戦意を燃やしながら、才人がゼロアイを装着。 「デュワッ!」 輝く光と化して、ビートルより早く奥多摩の怪獣が暴れる現場へと飛んでいった。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 奥多摩では、レッドキングが逃げ遅れた人たちを今にも叩き潰しそうになっていた。 「うわああああッ!」 彼らの命が危機に晒されているところに、ウルトラマンゼロが到着! 『てぇぇぇぇいッ!』 上空からの急降下キックがレッドキングに入り、大きく蹴り飛ばした。それにより逃げ遅れた 人たちは間一髪で助かり、避難に成功する。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 レッドキングの前にチャンドラー、マグラー、ギガスが集まり、登場したゼロと対峙して威嚇する。 『来い、怪獣ども! このウルトラマンゼロが相手になってやるぜ!』 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 「ギャアアオオオォォウ!」 「ゲエエオオオオオオ!」 ゼロの挑発に応じるように、チャンドラーたちが一斉にゼロに押し寄せてきた。 『はぁッ!』 対するゼロはまずチャンドラーの突進をいなし、マグラーの頭部にキックを一発入れて ひるませ、殴り掛かってくるギガスの腕を捕らえてウルトラ投げを決めた。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 投げ飛ばされたギガスに代わってレッドキングがパンチを打ち込んできたが、ゼロは紙一重で かわし、反撃の掌底で突き飛ばした。 「ギャアアオオオォォウ!」 そこにマグラーも跳びかかってくるも、すかさず反応したゼロがひらりと身を翻したことで 丘陵に激突した。 四体もの怪獣相手に敢然と戦うゼロは、頭部のゼロスラッガーを取り外して両手に握る。 『一気に決めてやるぜ!』 そして突っ込んできたチャンドラーにこちらから踏み込んでいき、刃を閃かせる。 「セェェアッ!」 逆手持ちのスラッガーの一閃が、チャンドラーの片翼をばっさりと切り落とした。 「ゲエエゴオオオオオオウ!!」 『だぁぁッ!』 それで留まらず、振り返りざまにゼロスラッガーアタックが叩き込まれた。ズタズタに 切り裂かれたチャンドラーは瞬時に爆散。 「ギャアアオオオォォウ!」 「ゲエエオオオオオオ!」 一瞬でチャンドラーを撃破したゼロに、マグラーとギガスは動揺して後ずさった。 『さぁて、次はどいつだ!』 スラッガーを頭部に戻して残る怪獣たちに向き直ったゼロだったが、 『……ぐあッ!?』 その肩に突然電気ショックが走った。予想外のダメージにゼロもふらつく。 『くッ、今のは……!』 振り向くと、その方向の空間からヌゥッと新たな怪獣の姿が出現した。 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 透明怪獣ネロンガだ! 今のはネロンガの角から放たれた電撃であった。 『くッ、新手か……!』 うめくゼロだったが、新たな怪獣の出現はネロンガで終わりではなかった。 「グウウウウウウ……!」 「ウアァァァッ!」 丘陵の影から怪奇植物グリーンモンス、海獣ゲスラが出現! 「ミ――――イ! ミ――――イ!」 「カァァァァコォォォォォ……!」 更にミイラ怪獣ドドンゴ、毒ガス怪獣ケムラーも地中から出現した! 『五体も増えやがった!』 『ホントに怪獣軍団じゃねぇか!』 一気に八対一となり、さしものゼロも動揺を禁じ得なかった。 しかし怪獣が現れているのはこの場所だけではなかった! 「ガアアアアアアアア!」 雪山には伝説怪獣ウーが出現! 「ギャオオオオオオオオ!」 大阪には古代怪獣ゴモラ! 「ピャ――――――オ!」 国道上には高原竜ヒドラ! 「ギャアアアアアアアア――――――!」 山岳部には灼熱怪獣ザンボラー! 「パアアアアアアアア!」 市街地には吸血植物ケロニア! 「キュ――――――ウ!」 「グアアアアッ!」 更に石油コンビナートを油獣ペスター、沿岸を汐吹き怪獣ガマクジラが襲っていた! 日本中を襲う怪獣軍団。だがゼロも大勢の怪獣を前に苦戦しており、とても現地に駆けつける ことは出来なかった。 「グウウウウウウ……!」 グリーンモンスは花弁の中央からガスを噴出。それは強力な麻酔ガスであり、ゼロの身体をも 痺れさせ苦しめる。 『うッ、ぐッ……!?』 「ウアァァァッ!」 更にゲスラが体当たりしてきて、その背中に生える毒針がゼロに刺さった。 『ぐわぁぁぁッ!』 「カァァァァコォォォォォ……!」 その上ケムラーが口から亜硫酸ガスを大量に噴出した。 『うッ、ぐううぅぅぅぅ……!』 ケムラーの亜硫酸ガスは凄まじい毒性だ。ただでさえ毒を食らい続けているゼロの身体を 破壊していく。カラータイマーがけたたましく鳴り、ゼロの大ピンチを表した。 『こ、こいつはやべぇぜ……!』 しかし怪獣たちの猛攻に追いつめられているところに、ジェットビートルが駆けつけた。 「あのウルトラマンが危ないわ!」 「攻撃開始!」 科特隊はビートルからロケット弾を発射し、怪獣たちを上空から狙い撃ち。ゼロへの攻撃を 妨害して援護する。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 「ミ――――イ! ミ――――イ!」 だがビートルもドドンゴの目から放たれる怪光線に狙われ、危機に陥る。やはりあまりの 数の差に、ゼロたちは苦しい状況が続く。 「ホアーッ! ホアホアーッ!」 その時、地上に小型の赤い怪獣が現れて、ピョンピョン飛び跳ねることで巨大怪獣たちの 注意を引きつけた。あれはピグモンだ! 『ピグモン! あいつ、まさか俺たちを助けようと……!』 驚くゼロ。だがあれではピグモンの方が危うい。 緊急着陸したビートルから飛び出したハヤタとイデが、ピグモンへと急いで走っていく。 「ピグモーン!」 「大丈夫かー!」 しかしハヤタたちが駆けつける前に、ドドンゴがピグモンを狙って怪光線を放ってしまった! 「ミ――――イ! ミ――――イ!」 怪光線は崖を砕き、発生した岩雪崩がピグモンの頭上に降りかかる。 「ホアーッ!?」 『!!』 ゼロの身体が青く輝く。 岩雪崩がピグモンに襲い掛かり、ピグモンは岩石の下敷きになってしまった。 「ホアーッ!」 「ピグモーンッ!」 「ピグモンッ!」 ピグモンの元までたどり着いたハヤタが岩の下から引きずり出したが、ピグモンはそのまぶたを ゆっくりと閉ざしていった……。 「ピグモーン!!」 「くッ……! ちくしょうッ!」 激昂したイデがスーパーガン片手に怪獣軍団へ立ち向かっていく。 一方でハヤタは、ベーターカプセルをその手に強く握り締めていた。 「俺は一体、何を……!」 ハヤタは己の迷いがピグモンの犠牲を招いてしまったことに、激しい後悔を抱いていた。 そして才人の言葉にも背中を押され、遂に迷いを抱えていたその目に力が戻った! 「おおおッ!」 駆け出したハヤタがベーターカプセルを掲げ、スイッチを押した! 百万ワットの輝きが焚かれ、ハヤタは巨躯の超人へと姿を変えたのだ。 「ヘアッ!」 宙を自在に飛び回りながら怪獣たちを牽制する銀色の流星を見やり、才人が歓喜の声を発した。 『立ち上がってくれたのか……! ウルトラマン!!』 そう、暴虐なる怪獣軍団の中央に降り立ち、倒れているゼロを守るように大きく胸を張ったのは、 失意の淵から甦った我らがヒーロー、ウルトラマン! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9321.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十七話「双月の夜に怪獣が踊る」 月の輪怪獣クレッセント 羽根怪獣ギコギラー 硫酸怪獣ホー カプセル怪獣ミクラス 登場 クリス発案の、平民を対象とした舞踏会はとうとう許可を得られた。なかなか理解を得られない 苦難の道のりであったが、その分喜びもひとしおというもの。才人たちは開催日までの数日間、 はりきって準備を執り行った。 そしてハルケギニアの双つの月が夜天に輝くその日、遂に舞踏会の本番がやってきたのだ。 舞踏会が開始されるとともに、会場のダンスホールに招待された平民たちが大勢入ってきた。 いつもはメイドのシエスタも、今日はドレスで着飾っておもてなしされる側だ。 給仕をするのはもちろん主催のクリスたち。ギーシュとモンモランシーも仲間に戻ってきて、 ともにせっせと給仕している。が、さすがに慣れていない作業なのでどこかぎこちない。 そんな中で一番手慣れているのは、才人とルイズだった。ルイズが接客できる事実に、 彼女を知る者はかなり意外な顔をしていたが、去年の夏に『魅惑の妖精』亭で働いた 経験が活きているのだ。 「あの時、俺たちを拾ってくれたスカロンさんに感謝だな」 ルイズのてきぱき働く姿を見て才人がひとりごちた時、 「ああ、トレビア~ン! ルイズちゃん、ス・テ・キ!」 当のスカロンが会場に現れて、ルイズに向けてそう告げたのだった。 「あら? そっちにいるのはサイトちゃんじゃないの」 「ど、ども、スカロンさん。お久しぶりです……」 相変わらずの濃いキャラクターに、恩人とはいえ才人は引き気味であった。 「ちがーうでしょ! ミ・マドモアゼルとお呼びなさい!」 「は、はぁ。すいません、ミ・マドモアゼル」 「うんうん。今日はお仕事でのお招き、ありがとね~」 「お仕事でのって……」 ルイズが才人に疑問の視線を向けた。スカロンは客ではないのか。 「ほら、舞踏会には楽団が必要だろ? 用意してもらったんだよ。そういうことはやっぱり、 その筋のプロに頼むのが一番だからな」 「あ、ああ、そういうこと」 納得するルイズのメイド服姿を観察するスカロン。 「それにしてもルイズちゃん、お洋服よく似合ってるわよ~? ウチの制服もよかったけど、 ルイズちゃんは品があるから、こういうオーソドックスな格好も様になるわね~」 「あ、ありがとうございます……」 「でーも、もっとリラーックスしなくちゃダ・メ。妖精さんらしく、コケティッシュに舞うように お客様をおもてなしするのよッ! 忘れてないわよね? 一番大切なのは、笑顔ッ!」 「は、はいッ!」 スカロンからのありがたい訓示。ルイズは反射的に、『魅惑の妖精』亭時代のような返事をしてしまった。 「ルイズちゃんのご学友ちゃんたちはもっと固いわね~。それじゃいけないわ。みんなにも 笑顔でお客様をおもてなししてもらわないとねッ!」 プロ根性に火が点いたのか、スカロンはクリスたちのところを回ってそれぞれアドバイスしていく。 彼の強烈な見た目に、クリスたちは初めギョッとしていたが、さすがに人気店の店長、的確な指導で 彼らの接客を瞬く間に改善していった。 給仕のクリスたちの表情が明るくなったことで、舞踏会もどことなく明るさを増したようであった。 このことに、ルイズと才人は顔を見合わせて満足そうに微笑み合ったのだった。 それからも舞踏会は盛況が続き、双月が空に輝く頃に、最後の演奏が始まる。 「ふー……さすがに疲れてきたな。リシュはもう寝てる時間だろうかな」 才人はふとリシュのことを気に掛けた。自分も舞踏会に出たがっていたリシュだが、さすがに 大勢の人が集まるところに出しては目立つなんてものではないので、生憎ながら留守番をさせたのであった。 思いを馳せていると、才人の側にルイズがやってくる。 「……サイト」 「んあ、ルイズか。どーした?」 「……曲、始まったわね」 「ああ、そーだな。これが最後の演奏かなぁ」 「そ、そうね。多分、最後よね。ええ、最後だわ」 何かを言いたそうに、もじもじとするルイズ。と、才人はこんなことを言った。 「そういえば、舞踏会といやぁあの時のことを思い出すよな。確か、『フリッグの舞踏会』だったっけ。 アントラー倒した後の」 「『フリッグの舞踏会』? ああ、懐かしいわね。あんたを召喚してまだ日が浅い時のことだったわね」 二人はその時のことを思い返す。あれから結構な時間が経った。夏が来て、冬を迎えて、 年をまたぎ……その間に、本当に色んなことがあった。当時の自分たちに、才人がハルケギニアの 貴族になると言ったら信じるだろうか。 懐かしんでいる才人に、ルイズがすっと手を差し伸べる。 「踊ってあげても、よくってよ」 あの時と同じ台詞に、才人は思わずニヤッとなった。 「踊ってください、じゃねえのか」 才人が返すと、ルイズも微笑を浮かべる。 「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」 笑い合う二人。才人はゆっくりとルイズの手を取ろうとしたが……。 「ギイイイイイイイイ……!」 突然、外から何かのうなり声が聞こえた。才人たちは弾かれたようにバルコニーの方へ振り向く。 演奏も中断し、会場は騒然となる。 果たして、空の一画が唐突にスパークし、雷が集まって巨大怪獣が出現した! 「ギイイイイイイイイ!」 学院のすぐ側に怪獣が出現したことで舞踏会の招待客は一斉に悲鳴を上げ、なだれ込むように ホールから逃げ出していく。 「皆さん、落ち着いて下さい! 出口に一辺に押し寄せないで、怪我をします!」 クリスたちやスカロンは招待客の避難誘導に当たる。才人は怪獣をにらんでつぶやいた。 「あいつは月の輪怪獣クレッセント……!」 と言ってから、はたと変な顔を作った。 「ん? 何で今、一発で言い当てたんだろ。端末のデータも見ないで」 「サイト! 怪獣がもうそこまで迫ってるわ! どうにかして!」 しかしルイズの呼びかけで我に返った。 「あ、ああ、そうだな。けどここじゃ変身できねぇ……!」 ホールは大勢の人で混雑しており、その前で変身することは無理だ。しかしクレッセントは 今にも学院を攻撃しそうで、悠長に変身できる場所を探している余裕はない。 となれば、カプセル怪獣の出番だ。 「頼んだぞ、ミクラス!」 素早くカプセルを投げ飛ばす才人。外へと飛び出していったカプセルからミクラスが現れ、 クレッセントにタックルをかます。 「グアアアアアアアア!」 「ギイイイイイイイイ!」 不意打ちを食らったクレッセントは突き飛ばされ、ひとまずの学院の危機は回避された。 「よし、今の内にお客さんたちをここから逃がそう!」 「ええ!」 ミクラスが時間稼ぎをしてくれている間に、才人たちも避難誘導に加わる。 「グアアアアアアアア!」 「ギイイイイイイイイ!」 ミクラスは持ち前のパワーでクレッセントを足止めする。クレッセントは両眼から熱線を 照射して攻撃するが、ミクラスは回避の直後に相手の懐に踏み込んで、突進で仰向けに転倒させる。 「グアアアアアアアア!」 ミクラスは倒れたクレッセントに馬乗りになって、顔面にパンチを浴びせかける。このまま 押し切ることが出来るか。 いや、そう上手く事は運ばないようだった。夜空の彼方から、新たな怪獣が飛来してきたのだ。 「ギャオオオオオオオオ!」 羽根怪獣ギコギラーだ! ギコギラーはクレッセントの仲間のようで、ミクラスにフライングキックを 浴びせて蹴り飛ばした。 「ウアアアアアアアア!」 更には青い怪光が瞬き、三体目の怪獣がこの場に出現した。硫酸怪獣ホーだ! ミクラスはたちまちの内に三体の怪獣に襲われ、袋叩きにされる。このままではミクラスが危ない。 「グアアアアアアアア!」 「ミクラスが! けど、避難はあらかた完了したぜ!」 招待客はミクラスが戦っている間に、ほぼ全員逃がすことが出来た。ここからはウルトラマン ゼロの活躍だ! 才人はバルコニーの物陰に隠れて、ウルトラゼロアイを装着した。 「デュワッ!」 たちまち姿が変わる才人。そして変身を遂げたゼロは巨大化の勢いで怪獣たちに飛びかかっていき、 三体纏めて突き飛ばした。 「あッ! ウルトラマンゼロだ!」 「ゼロが俺たちを助けに来てくれたぞぉー!」 「がんばれー! ウルトラマン!」 避難中の平民たちも、ゼロの姿を認めると一転して喜色満面となり、わいわいとゼロの応援を飛ばした。 ミクラスをカプセルに戻したゼロは、下唇をぬぐって怪獣たちに啖呵を切る。 『へッ、性懲りもなく現れやがって! このウルトラマンゼロがきっちり引導を渡してやるぜッ!』 だが、自分の発言にはたと疑問を抱いた。 『……ん? 何言ってるんだ、俺。こいつらと戦うのはこれが初めてじゃねぇか。……何と 勘違いしてるんだ?』 「ギイイイイイイイイ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 「ウアアアアアアアア!」 しかし自問の答えを求めている時間はなかった。怪獣たちが一気に押し寄せてきて、 ゼロは突き飛ばし返される。 『おわぁッ! いけねぇいけねぇ、戦いに集中しないとな!』 意識を切り換えたゼロは、宇宙空手の構えを取り直して三体の怪獣に立ち向かっていく。 『せぇぇいッ!』 「ギイイイイイイイイ!」 まずは鋭い爪を振りかざして迫ってきたクレッセントの引っかき攻撃をいなし、首を抑え込む。 ギコギラーとホーを後ろ回し蹴りで牽制しながら、クレッセントを首投げで地面に叩きつけた。 『おりゃあッ!』 「ギャオオオオオオオオ!」 ギコギラーが飛びながらキックを繰り出してくるが、バク転で見事に回避。姿勢を戻すと ゼロスラッガーを投擲し、ギコギラーの翼を裂いて地上に落とした。 「ウアアアアアアアア!」 『はぁッ!』 ホーが接近しながら硫酸の涙を飛ばしてくると、ウルトラゼロディフェンサーで防御。 そしてエメリウムスラッシュで胸を撃ち、ひるませて硫酸を止めさせた。 三体の怪獣が同時に攻めてきても、ゼロは大立ち回りで互角以上の戦いを見せる。……というより、 どういう訳か怪獣たちの手が事前に予測できるのだ。それに合わせることで返り討ちにしているのだが、 何故初めて見たはずの怪獣の動きが読めるのかは、ゼロ自身にも分かっていなかった。実に不思議だ。 『どうにも変だが……まぁ怪獣をやっつけるのが先決だ! 行くぜッ!』 ゼロは左腕を横に伸ばし、ワイドゼロショットを発射! クレッセントに綺麗に命中し、爆散させる。 「ギイイイイイイイイ!!」 次の狙いはギコギラーだ。ウルティメイトブレスレットを輝かせ、赤く燃え上がって二段変身。 『ストロングコロナゼロッ!』 ギコギラーの身体をむんずと捕らえて空高くに放り投げる! 『ウルトラハリケーンッ! からのガルネイトバスターッ!!』 「ギャオオオオオオオオ!!」 高熱光線が炸裂して、ギコギラーも撃破。 最後に残ったホーには、ノーマルの状態に戻ってからスラッガーを胸部につなぎ、最大の光線を お見舞いしてやる。 『ゼロツインシュートォォッ!!』 「ウアアアアアアアア!!」 ホーは光の奔流に呑まれ、たちまちの内に大爆発を起こした。 かくして、三体の怪獣は全てゼロの流れるような連続攻撃によって完全に退治されたのであった。 「やったぁー! ゼロの大勝利だ!」 「やっぱりウルトラマンゼロは強いなぁ~」 「ゼロの戦いが間近で見られるのも、そう悪いものじゃあないな!」 戦いの結果に平民たちも大喜び。安堵とともに、喜んだりゼロを称えたりしている。 そしてゼロから戻った才人の元に、ルイズが駆け寄ってきた。 「お疲れさま」 「ああ、ありがとう」 「まさか最後にこんなことになっちゃうなんてね……。でも、舞踏会がどうにか成功してよかったわ……」 そのルイズの言葉に、才人は力を込めてうなずき返した。 「ああ、本当だな……。これでクリスも、この学院でのいい思い出が出来たかな」 元々はクリスのために始めたこと。才人の言葉を、ルイズが肯定した。 「出来たに決まってるわよ。みんなで協力して、大きなことをやり遂げたんだもの」 「そっか。そうだよな……」 舞踏会は大盛況で終了した。怪獣の襲撃も、ゼロの大活躍が見られたことでむしろ皆満足感を覚え、 客たちは口々に「楽しかったよ」と言ってくれたのだった。そのことでクリスは感動し、目尻に 涙さえ湛えていた。 「あああああ~、疲れたああああ!」 片づけも終えて、部屋に戻った時には肩の荷が下りる。才人は背筋を思いっきり伸ばして、 どっと息を吐いたのだった。 「おう、お疲れさん相棒」 「サイトさん、お疲れさまです。今日はとても楽しかったです」 デルフリンガーとシエスタは特に気にしなかったが、ルイズは才人を咎める。 「サイト! そんな大声出さないで。リシュが起きちゃうじゃない!」 「ああ、悪い」 ベッドの上では、リシュが横になってかわいい寝息を立てているのだった。 「くー……すー……」 「おー、よく寝てら。デルフ、リシュは大人しくしてたのか?」 才人の問いかけに答えるデルフリンガー。 「それがよ、最初はプンスカして『舞踏会に乗り込むー!』とか言ってた訳よ」 「何ー!?」 「そこでだ! 『んなことしたらお兄ちゃんに嫌われちまうぞ』って俺が諭してやったら、 ムスーッてしちゃいたが大人しくなったぜ?」 「そうだったのか。デルフにも苦労かけるな」 「なあに、子供の躾けぐらいは朝飯前よ。俺ぁ飯は食わねえんだけどな」 冗談を飛ばすデルフリンガー。苦笑した才人は、リシュの寝顔へ視線を戻した。 「クリスの件はこれでひと段落着いたし、そろそろリシュの件もどうにかしないとな。いい加減、 リシュがどうして地下にいたのかとか、はっきりさせなきゃ」 と語る才人。結局彼らは、リシュが一体何者なのか、最近の学院周辺での怪獣頻出と関係 しているのかなどを、まるで突き止められていないのだ。 ルイズとシエスタもうなずくが、直後にあくびを浮かべる。 「でも今日はとにかく疲れたわ……」 「わたしもです……。さすがに踊り疲れました……」 「わたし、もう寝るわ。サイト、あんたも疲れてるでしょ? そういうのはもう明日からにして、 早く寝なさいよ」 「へーい。おやすみルイズ、シエスタ」 「おやすみなさい」 「おやすみなさい、サイトさん」 三人は就寝の挨拶を交わすと、明かりを消してベッドに潜り込んだのだった。 ……そして三人が完全に寝ついてから、リシュはパチリと目を開いた……。 「ふふふふ……」 寮塔の屋根の上。何者かが、ここで夜空の双つの月を見上げて、怪しい笑いを発していた。 「サイト、ねえサイト。もうすぐよ……」 月明かりに照らされる、屋上の何者か――女性のような人影だが、コウモリ型の羽が背中から 生えている――が、上機嫌に独りつぶやく。 「もう十分よね? これだけいいものをたくさんたくさん、見せてあげたんだから……。 あと少しで、サイトはあたしのものになってくれるんだよね?」 謎の人影は、誰も聞いていないのをいいことに、不穏なことを語っている。 「サイトはあたしのもの! あたしのものよ! あーはははははは!」 高笑いする人影であったが、その時に誰もいないはずの屋上で誰か別の者の気配を感じ取り、 バッと振り返った。 『あーらぁ。ここ最近、この辺りで奇妙な力の波長が感じられると思ったら……どうやら その正体は、あなたみたいねぇ~』 その方向から声が発せられた。口調は女のものであるが、声質はかなり野太いという、 アンバランスな声だ。 『どうも見たところ、ただものじゃないみたいねぇ、あなた』 「……誰? あたしに何の用かしら? もし良からぬことを考えているのなら……!」 初めの人影は強い敵意を向けるが、後から現れた方はそれをなだめるように呼びかけた。 『そう焦らないでッ! かわいい顔が台無しよぉ? アタシは何も、危害を加えようだなんて ちっとも思ってないんだから。ホントよぉ?』 「……どうかしら」 『むしろ、あなたにご協力できるんじゃないかと思うの。ちょっと話を聞かせてもらったんだけど、 あなたの方も何か良くないことをするおつもりなんでしょ? でもあのお邪魔虫がいるからには、 そう簡単には行かないわよぉ。そう、ウルトラマンゼロ! 知ってるでしょ?』 ウルトラマンゼロの名前が出てきて、人影はピクリと震えた。 『彼がいる以上は、あなたが目的を達成するのもかなり難しいわ。けどダーイジョウブ! アタシったら悪いことに詳しいの。きっとお力になれるわぁ~。ネネ、アタシたち、 お友達になりましょうよ』 人影は、その申し出に思案しているようだ。 『二人の力を合わせれば、あのゼロだってどうとでも出来るわよ。そういうことだから…… 手を結びましょぉう?』 誘いを掛ける声に、返答は――。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9268.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十八話「風の竜のともだち(後編)」 凶悪怪獣ギャビッシュ 登場 ジャンボットが取り逃がした凶悪怪獣ギャビッシュの行方を追うグレンが見たのは、 シルフィードがしゃべっているところ。これによりグレンは、シルフィードが伝説の 風韻竜であることを知ったのだが、彼女の正体を公言しないという約束を取り交わしたことで、 シルフィードの秘密は守られることとなった。 そのシルフィードは、ちょうど悲しい経験をしたところであった。森の中で小さな女の子、 ニナと知り合ったのだが、彼女の村の人たちが恐ろしい竜の姿のシルフィードを拒むので、 ニナもシルフィードを恐れてしまったのだ。せっかく友達になれそうだったのに……と、 シルフィードは落ち込んでいた。グレンが取り成そうとも提案したが、シルフィードはニナの これからのために身を引くことを決めたのだった。 シルフィードはそれから、グレンのギャビッシュ捜索を手伝う。だが、悪魔のような怪獣の魔の手は、 既にハルケギニアの人間に忍び寄っていたのであった。そう、他ならぬニナの元に……。 シルフィードは背の上にグレンを乗せ、上空から森を見下ろしていた。シルフィードが尋ねかける。 「でも、小さくなれる怪獣をこんな空の上からで、捜し出せるのね?」 小動物のようなサイズになれる怪獣を見つけ出すのは、地上からでも至難の業というのは容易に想像がつく。 それなのに空から捜して、発見できるのだろうか。地上には木々に茂る葉しか見えないのだが。 だがグレンは自身ありげに答えた。 「そこんところは大丈夫だぜ。怪獣のパワーの波長は焼き鳥が記録した。空からでも、近くまで行きゃあ どんだけ小さくなろうと、その波長から居場所を探知できる。だからお前は、この辺をとにかく飛び回って くれりゃそれでいいのさ」 「ふーん? よくわかんないけど……怪獣は確かにこの辺にいるのね?」 「テレポート能力があるとはいえ、手負いの状態じゃ遠くへは逃げれないはずだ。絶対近くに いるはずなんだが……とにかく、早えぇとこ見つけ出さなきゃなんねぇぜ。発見が遅れりゃ遅れるだけ、 危険の度合いが増してく手合いだからな……」 そう話し合いながら森の上を飛び回っていくシルフィードとグレン。 そしてニナの村の近くまで差し掛かった。 「あッ、あの村は……」 先ほどのことを思い出して一瞬悲嘆に暮れるシルフィード。しかしその時に、グレンが叫んだ。 「やべぇ! 怪獣はあの村の中だ!」 「えぇッ!?」 その言葉の直後に、一軒の家が突然内側から破られ、青い毛皮の大怪獣が飛び出してきた! この怪獣の正体は当然ギャビッシュだ! 「ピィ――――――――!」 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」 村の人たちは、いきなり出現した怪獣に度肝を抜かれ、大慌てで逃げ惑い出した。 「くっそ、遅かったか! 誰かあいつに捕まってねぇだろうな……!」 グレンは冷や汗を垂れ流し、超感覚で人質の有無を探る。 出来ればいてほしくなかったが、残念ながらギャビッシュの右眼の奥に子供の姿があることを 捉えてしまった。 「まずいぜ、もう小さな子供が奴の目の中に閉じ込められてる……!」 「小さな子供!? まさか……!」 シルフィードは最悪の想像をした。そしてその想像も的中した。 破壊された家から逃げ出していた女性の叫びが聞こえたのだ。 「ああ! あんな小さな生き物が怪獣だったなんて……! ニナが、ニナがあいつに捕まった!」 顔面蒼白になるシルフィード。やはり、ギャビッシュに捕まった子供とはニナのことだったのだ。 「ピィ――――――――!」 ギャビッシュは村の破壊は行わず、代わりに進行方向を魔法学院のある方へと向けて森に踏み込む。 「もっと人質を増やして、誰からも攻撃されねぇようにするつもりか!」 そんな悪行を許してはならない。だが、ニナが目の中に囚われている以上、ギャビッシュに 攻撃することが出来ない。 戸惑うグレンたち。と、そこにジャンバードが大空から駆けつけてきて、ジャンボットに変形し ギャビッシュの前に立ちはだかった。 『待て! ここから先へは行かせんぞ!』 ジャンボットは早速ギャビッシュに飛びついて進行を食い止めるが、攻撃は加えない。 彼も人質がいることに気がついているのだった。 「ピィ――――――――!」 それをいいことに、ギャビッシュは容赦なくジャンボットを攻め立てる。鋭い牙で肩に噛みつき、装甲を砕く。 『ぐわぁッ!』 ひるんだところを爪で切り裂き、突き飛ばして尻尾の先端からの電撃光線を浴びせた。 『うぐわぁぁぁぁッ!』 防戦を余儀なくされるジャンボット。このままではやられるのも時間の問題だ。 「ど、どうにかニナちゃんを助けられないの!?」 泡を食って問いかけるシルフィード。それに対し、グレンは険しい表情で告げた。 「方法は一つだけだぜ……」 「あるのね!? 早く教えて! シルフィードも力になるのね!」 もう会わないと決めたが、こうなっては話は別だ。何としてでもニナの救出に尽力する所存だ。 そうしてグレンが、その方法を語った。 「焼き鳥の転送光線で俺たちがあいつの目の中に入り込んで、ニナを連れて脱出するんだ!」 「そんな単純なことなのね? だったら早く……!」 「だが入る時はよくても、脱出する時が問題だぜ。目の中から飛び出すんだから、文字通り奴の 目と鼻の先に出るんだ。とんでもなく危険だ」 ギャビッシュも馬鹿ではあるまい。人質を救い出したら、その瞬間に目先の彼らに襲いかかるはず。 対するグレンたちは、どうしても抜け出た瞬間は無防備にならざるを得ない。 「下手したら、命を落とすことだってあり得るぜ。シルフィード、お前それでもやれるのか?」 「……!」 問われて、一瞬返答に窮するシルフィード。怪獣の恐ろしさは彼女ももう知っている。 グレンの言葉が確かな現実になり得るものであることは、重々理解している。 いくら何でも、そこまでする必要があるのだろうか? ニナは今日会ったばかりの子供。 本当ならシルフィードとは何の関わりもないのだ。命を賭すほどの価値があるのだろうか。 「……やるのね!」 それでも、シルフィードはそう答えた。 「本気だな?」 「うんッ! ニナちゃんはちょっと会っただけだし、言葉も交わせないけれど……シルフィの ともだちなのね! ともだちは大事なものだって、お姉さまもそう思ってる! 命がけでも 助けるには、十分なのね!」 「よぉし分かったぜ! 絶対に俺たちでニナを救い出すぞッ!」 シルフィードの回答を気に入ったグレンは、すぐに行動に移った。ジャンボットの転送光線の 範囲内に入り、呼びかける。 「焼き鳥! 俺たちを奴の目の中に送ってくれ! 人質を救出する!」 『ジャンボットだ! って、それどころではないな! 頼んだぞ!』 もたもたしている暇はない。ギャビッシュがこちらの意図に気がつく前に、ジャンボットの 転送光線がグレンとシルフィードを包んで、一気にギャビッシュの目の奥へと二人を送り込んだ。 飛び込んでいったギャビッシュの眼球の中では、ニナがめそめそと泣いていた。 「怖いよぉ、ママぁ……」 そこにゆっくりと近寄っていくグレンたち。シルフィードが鳴き声を出す。 「きゅい」 「え……?」 振り返ったニナはグレンと、シルフィードの存在を確かめる。 「あなたは……さっきの竜さん? どうしてこんなところに……」 「こいつ、シルフィードは君を助けにここまで来たんだぜ」 と教えるグレン。それを聞いて、ニナは泣き止んでシルフィードの顔をまじまじと見つめた。 人間の感覚からしたら、厳つくて恐ろしい竜の顔。しかし、今のニナはその瞳の中に、 温かい優しみを見出していた。 「竜さん……ありがとう……」 ニナはシルフィードの首にそっと抱きつき、つぶやきかけた。 「きゅい……」 シルフィードは目をつむり、小さく鳴く。 しかし今は穏やかな時間を過ごしている暇もないのだ。 「ニナちゃん、礼を言うのはまだ早いぜ。ここから脱出だ! さぁ、シルフィードに乗るんだ」 「うん!」 グレンがニナを抱え上げてシルフィードの背の上に乗せ、シルフィードにはこう囁きかける。 「シルフィード、心の準備はいいな? ここから出たら、一気に森の中に飛び込んで隠れるんだぜ!」 「きゅい!」 グレンの指示に、決意を固めた面持ちでうなずくシルフィード。先ほども説明したが、 ギャビッシュが目の中で行われていることに気がつかないはずがない。脱出した瞬間に、 彼らに牙を剥いてくるはず。シルフィードはそれから逃げ切らないといけないのだ。 大変危険なことだ。 それでも、シルフィードはそれをやる覚悟があるからこそ、ここに来たのである。 「よし……行けぇッ!」 グレンの合図で、二人を乗せたシルフィードが一直線に飛び立った! ギャビッシュの水晶体と角膜をぬるりとすり抜け、シルフィードが外の世界に脱け出した! そこは当然ながら、ギャビッシュのすぐ眼前。 「ピィ――――――――!」 この瞬間に、ギャビッシュがシルフィードたちに食らいつこうと首を伸ばす! 「危ねぇッ!」 「きゅいい!」 あわや食い殺されるかというところで、シルフィードは急降下した。その甲斐あって、 すんでのところでギャビッシュの牙から逃れられた。牙はガチン、と空を切る。 ギリギリ攻撃をよけられたが、ギャビッシュはすぐに追撃を行おうとする。 『させんぞッ!』 しかしジャンボットがすかさず飛びついて、追撃を阻止した。彼のお陰で、シルフィードは ぐんぐんと森に近づいていく。 「いいぞ! あと少しだぜ!」 興奮して声を張り上げるグレン。このまま森に紛れてニナとシルフィードを逃がせば、 そこからはギャビッシュを一気に仕留めてくれる。 「ピィ――――――――!」 『ぐわッ!』 だがギャビッシュも甘くはなかった。長い尻尾を横から叩きつけてジャンボットを弾くと、 シルフィードめがけ針状の光線を吐き出す! 「きゅいぃ!」 必死に光線をかいくぐるシルフィードだが……避け切れずに、針の一本が胴体をかすめた! 「きゅいー!」 「シルフィードッ!」 「竜さん!?」 シルフィードはバランスを崩し、森の手前、村の入り口の付近へと不時着した。 「シルフィード! おい! しっかりしろ!」 「竜さん、しっかりしてー!」 シルフィードが最後まで力を振り絞ったお陰で、背の上のグレンとニナに負傷はなかったが、 その代わりにシルフィード自身の息が絶え絶えだ。グレンが慌てて応急手当てを行い、ニナが 必死に呼びかける。 「ピィ――――――――!」 ギャビッシュは冷酷無情にそこへ攻撃しようとする。が、 『やめろぉッ!』 体勢を立て直したジャンボットの鉄拳が突き刺さり、殴り飛ばされた。 『この卑劣漢め! 貴様は最早万死を免れんぞ! ジャンファイトだ!』 小さな少女を人質にし、更に彼女を命がけで救出した竜を撃ち落とすような悪質な怪獣への 義憤にジャンボットは燃えていた。そしてギャビッシュとの間合いを詰め、格闘戦を行う。 「ピィ――――――――!」 応戦するギャビッシュだが、人質が助けられた以上はジャンボットも遠慮がない。相手の鋭い爪を 鉄の拳が弾き返し、ギャビッシュを何度も殴り飛ばす。自慢の牙で噛みつこうとしても、顎を掴まれ 大きく投げ飛ばされた。 「ピィ――――――――!」 肉弾戦では分が悪いと見てか、ギャビッシュが尻尾を持ち上げて先端から電撃光線を放射しようと構えた。 『させるものか! ジャンブレード!』 しかしそれより早く、ジャンブレードを出したジャンボットが跳ぶ。そして刃が一閃し、 ギャビッシュの尻尾を切断した! 切り落とされた尻尾が地面に落下し、ビタンビタンと跳ねる。 「ピィ――――――――!?」 ここに至って、ギャビッシュは最早勝ち目なしと見たか、なりふり構わず背を向けて全力の逃走を始める。 だが、今更そんな真似を許すジャンボットではない。ジェットで飛んでギャビッシュの前方に 回り込み、すかさずとどめの光線を撃ち込む。 『ビームエメラルド!』 緑色の光線はギャビッシュの胸に直撃! ギャビッシュの全身は青い炎に包まれ、そのまま完全に燃え尽きた。 こうして卑劣極まる凶悪怪獣は天誅を受けたのであった。 しかしギャビッシュを倒せても、地に伏せたシルフィードは目を開かなかった。 「うえーん! 竜さーん!」 伏したままピクリとも動かないシルフィードに覆い被さり、ニナはわんわんと泣きじゃくる。 そこに、怪獣が倒されたことで戻ってきた村人たちが集まる。 「その竜は、今朝の……」 「俺は見たぜ。ニナちゃんは、その竜が怪獣から救い出したんだ」 「でも、どうして竜がそこまでして……」 ざわつく村人たちに、グレンが説明する。 「その竜、シルフィードは、ちょっとの間だがニナちゃんと仲良くしたんだ。そのニナちゃんを 見捨てることは出来ねぇと、危険をかえりみずに怪獣に立ち向かってったんだよ」 それを聞いて、ニナの母親が一番ショックを受けた。 「ああ、うちのニナのためにそこまで……。あんな仕打ちをしたってのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだわ……」 ニナの母親を始めとして、村人たちは次々とバツの悪い表情となった。 「こいつは竜だけど、心優しい奴だったんだな……」 「わたしたちは見かけだけで判断して、いい竜を追い出して、悪魔を呑気に受け入れた……。 なんて愚かだったんだろうね……」 「この竜には感謝してもし切れない。本当に、ありがとう……」 心から反省した村人たちは、せめてシルフィードの優しさと勇敢さを称えようと、一斉に黙祷を捧げた。 「うう、竜さん、こわがってごめんなさい……。竜さぁん……」 ニナもまた謝罪し、シルフィードの死にさめざめと涙を流したのだった。 ……現在のシルフィードが生きているのだから、ここで死んでいるはずがない。 シルフィードは単に意識を失っていただけで、数時間後にしっかり目を覚ましていたのだった。 「きゅーい!」 「わぁ、たかーい! すごーい!」 ニナを乗せて宙を舞うシルフィード。ニナは肌で風を感じ、きゃっきゃっと楽しそうに笑う。 あの事件を経てシルフィードは村の人たちに受け入れられ、ニナとも本当に友達になることが出来た。 言葉を交わすことは出来ないものの、暇な時はともに遊ぶような関係になったのであった。 本来の生息地から遠く離れた場所に召喚されて、タバサといない時は孤独であることが 多かったシルフィード。しかしもう孤独ではなくなった。大事な友達が出来て、シルフィードは とても気持ちよさそうに空を自在に飛んでいる。 その様子を地上からながめたグレンもまた、快活な笑顔を浮かべていたのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9278.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十一話「ウルトラマン高校生」 月の輪怪獣クレッセント 登場 「……サイトさん、サイトさん」 「う~ん……」 「サイトさん、起きて下さい。もう朝ですよ」 ……シエスタの呼ぶ声で、俺は目を覚ました。 うっすらと開けた目に飛び込む景色は、俺の部屋のもの。 ……え? 俺の部屋? 「おはようございます、サイトさん」 寝転がっている俺の顔を上から覗いているのは、声の主のシエスタ。 「お、おはよう、シエスタ。……っていうか、どうしてシエスタが俺の部屋に?」 俺が尋ねかけると、シエスタは呆れたように返答した。 「もう、毎朝、起こしに来てるじゃないですか。じゃないとサイトさん、いつも遅刻するんですから」 「毎朝? えーと……いつから?」 「いつからって、いつの間にか……ですよ? えーと中学校の時にはもう習慣になってましたね」 「中学校?」 ちょっと待て。俺、シエスタとそんなに長いつき合いだったっけ? それに……シエスタの 格好はどういうことだ? 「シエスタ……。何で俺の学校の制服なんて着てるの?」 そう、シエスタは俺の学校のブレザー姿なのだ。いつものメイド服はどこ行ったんだ? 「何でって、これから学校に行くんだから、制服を着ているのは当たり前でしょう?」 え? シエスタが、俺の学校に……? シエスタの職業はメイドじゃあ……。 あれ……でも、言われてみれば、シエスタが俺の学校の生徒というのも、違和感がないような 気がしてきた……。うーん……。 「おかしなサイトさん。もしかして、悪い夢でも見たんですか?」 首をひねる俺に、シエスタはクスッと笑ってそう聞いた。 「悪い夢っていうか……俺、剣と魔法の異世界に召喚されたはずなんだけど……」 と言うと、シエスタにますます笑われた。 「それが夢じゃなきゃ、何なんですか? サイトさんが異世界に召喚されるなんて、現実に ある訳ないじゃないですか」 「い、いや、でも……」 戸惑う俺。あんなにはっきりと現実感があるのが夢だなんて……。特に、俺を召喚した あのピンク髪のかわいい……。 ……あれ? 何て名前だったっけ……。全然思い出せない……。 ……いや、思い出せないんだったら現実じゃあないよな。あれは長い長い夢だったんだ! うん、ここが現実! そうに決まってるじゃないか! 俺の部屋が現実じゃないなんてことが ある訳ないよ! 「い、いや、ごめん。変な夢見たから混乱してたみたいだ」 「ふふ、ならよかった」 シエスタの笑顔が安堵のものに変わった。 「ごめんなシエスタ、心配かけちゃって」 「いいえ。それより、早く起きて支度して下さい。一緒に登校する幼馴染を遅刻させる気ですか?」 幼馴染……。そうだ、生まれてからずっと一緒の幼なじみだよな、俺とシエスタは。 こうして毎朝シエスタに起こしてもらって、一緒に高校に登校して、授業受けて……。 これが俺の日常なんだよな。 ……でも……何か違う……ような。 って、そんなこと考えてる場合じゃない! 急がないと、本当に遅刻だ! 制服に着替えた俺は、シエスタと一緒に学校へと走っていた。 「ほら、シエスタ、早く行こうぜ。遅刻しちゃう!」 「はぁ、はぁ……。さ、サイトさんが早く起きてくれれば、走らなくてもいいのに……」 それは、まぁ……その通りか。すまんシエスタ、俺の幼馴染に生まれたんだから、諦めてくれ。 「あ、サイトさん」 ふと足を止めたシエスタが、横手の公園を見やった。 「見て下さい、あの公園。子供の時、よく一緒に遊びましたよね」 「ああ、そうだな」 懐かしいなぁ。小さい時に、よく遊んだ公園だ。もちろんシエスタとも一緒に……。 ……一緒だったよな? その時の情景が、よく思い出せないんだが……。 疑問を抱いていると、シエスタがこんなことを言った。 「ねえ、サイトさん……。わたしたち、この街でずっと一緒に過ごしてきたんですよね」 「あ、ああ。そうだよな」 「小学校も中学校も、高校だって同じ……。だから、これからも一緒ですよね、わたしたち。 大人になっても……ずーっと……」 一緒……。そうだよな……こんなことを女の子が言ってくれるからには、そうだったに 決まっているよな。わざわざ嘘を吐く必要があるはずないしな。 「一緒なんじゃないかなぁ。シエスタが俺の幼馴染をやるのが嫌になっちゃったら、そこで 終わりだろうけど」 からかい気味に言うと、シエスタは急に大声を出した。 「嫌になんかなりません!!」 「わッ!? じ、冗談だって今のは。びっくりさせるなよ」 「冗談でも、そんなこと言わないで下さい!」 「ご、ごめん。そんなに怒らないでくれよ。なッ、なッ?」 必死にシエスタをなだめる俺。まさかこんな過敏な反応するとは思わなかったなぁ……。 と、俺がシエスタの方に意識を向けていたら……。 「あ、サイトさん危ない!」 「え?」 シエスタが叫ぶので、振り向くと……セーラー服の小柄な女の子がこっちに向かって走ってきた! 「遅刻遅刻ー! 転校初日から遅刻なんて最悪だわー!」 「うわぁッ!?」 俺はその女の子に激突される! 「きゃあッ!?」 「いててててて……」 女の子の勢いがすごかったので、お互い尻もちを突いてしまった。 「いったぁーい……」 「サイトさん、大丈夫ですか!?」 「ああ、俺は大丈夫だけど……」 シエスタの手を借りながら立ち上がると、ぶつかってきた女の子に目をやる。いい体当たり かましてきやがって……何だこいつ。 ピンク色の髪の、顔はかわいらしい女の子……。あれ? どこかで見覚えがあるような…… それに、どことなく親近感を覚えるような……。 いやいや、そんなまさかな。こんな、ひと目見たら忘れられないような美少女、どこかで 会ってたら忘れる訳がないや。 「おい、危ないじゃ……」 「ちょっと、あんた! こんなところで何ぼーっと突っ立ってんのよ!」 俺が文句をつけようとしたら、先に女の子から怒鳴られた。 「へ?」 「ああもう! グズね! 紳士たるもの、女性が走ってきたら道を開けなさいよ!」 あんまりな物言いに、俺もついむかっ腹が立ってしまった。 「な、何なんだよ、お前! 前も見ないで走ってたのはそっちだろ!」 「何よ! 道の真ん中に突っ立ってるあんたが悪いんじゃない!」 「悪いのはお前だッ! 俺のこと見えてたんだろ、避けるくらいしろッ!」 女の子と口論する俺だが、女の子は苛立ったようにそれを打ち切った。 「あーもう、こんなことしちゃいられないの! 遅刻しちゃうんだから~!」 「あ、おい、待てよ!」 「あんたに構ってる時間はないの! もう、遅刻遅刻ー!」 女の子は俺の制止を振り切って、嵐のように去っていった……。俺はそれを呆然と見送る……。 「……何だったんだ、あいつ」 「……すごい女の子でしたね」 シエスタも呆気にとられている。 「まぁ、そんなことは置いといて、俺たちもそろそろ急ごうぜ。大分時間食っちまったよ」 「そ、そうでしたね。行きましょう、サイトさん!」 気を取り直して、学校へ向けて走っていこうとした、その時……! 「ギイイイイイイイイ……!」 「ん?」 上の方から、何かのうなり声のようなものが聞こえた気がした。その方角を見上げると……。 空の彼方の一画が唐突にスパークし、雷が集まって巨大怪獣が出現した! 「ギイイイイイイイイ!」 「う、うわぁぁぁッ!? 怪獣!?」 全身灰色の皮膚だけど首元だけ白い三日月模様があり、まるでツキノワグマみたいだ。 顔には真っ赤な二つの目玉と、三本の牙が出っ歯みたいに裂けた口からはみ出している……! かなり凶暴そうな雰囲気だ! 通信端末には、月の輪怪獣クレッセントとある。けど……地球圏の怪獣は全部倒されて、 もう出現しないんじゃなかったのか!? それがこんないきなり……! 『才人、怪獣の出現だ!』 ん? いきなり、誰かの声が耳に……いや、脳内に直接届いた。 目を落とすと、左腕の手首にごてごてとした銀色のブレスレットが嵌まっている! うわッ!? こ、こんなのつけていたっけ……!? 『ぼやぼやしてる暇はないぜ。変身だ! 怪獣と戦うぜ!』 声はそのブレスレットから発せられているみたいだ。って……変身!? それってまさか……。 昔の地球では、怪獣に襲われて人間がどうしようもないピンチに陥った時、助けてくれる 大恩人がいた。奇跡のような力で怪獣に立ち向かい、俺たちの先祖の命を救ってくれていた 光の巨人……ウルトラマン! まさか、俺にウルトラマンになれって言ってるのか!? このブレスレットは! 「お、おい、待ってくれよ! いきなりそんなこと言われても……心の準備って奴が! そもそも、 どうしてよりによって俺がウルトラマンに!?」 『なーに言ってんだよ、お前。俺たちは前から一心同体じゃねぇか。そう、お前の命が失われそうになって、 俺が融合することでつないだあの時から』 ええッ!? お、俺の命が失われそうになっただって!? 「そ、それっていつ、どこでのことだよ! 記憶にないぞ!?」 『いつ、どこってそりゃあ……あれ? いつ、どこで起きたことだったっけ……? 何で思い出せねぇんだ?』 ブレスレットの声にも分からないことみたいだ。おいおい、そりゃないだろ。そんな重大な ことを忘れるなんて……。 『いや、今はそんなことどうでもいいぜ。さぁ、早くこのウルトラゼロアイを装着して変身するんだ! いつもやってることだろ! ……確か』 ブレスレットのランプ部分から出てきたのは、青と赤と銀色のサングラスみたいなものだった。 あれ? これを見た途端……混乱していた頭の中が、急にクリアになった気分になった。 これを身につけることが、これまでで一番しっくり来る動作のような……。 俺はほぼ無意識に手を伸ばし、眼鏡を掴むと流れるような自然な動きで顔に張りつけた。 「デュワッ!」 その瞬間、俺の身体が光に包まれ、青と赤と銀色の巨人の姿に変貌していった! 巨人になった俺が怪獣クレッセントの前に着地する! 『よぉっし! ウルトラマンゼロ、出撃だぜッ!』 ウルトラマンゼロ……! ああ、そうだよ。どうして忘れてたんだ。ウルトラマンゼロ……それが俺たちの名前じゃないか。 俺たちは今日まで、いくつもの戦いを一緒に乗り越えてきた! ……はずだ! 何故かその戦いの 日々は思い出せないけど……そうだと心が訴えている! 『よし、行こうぜゼロ! 力を合わせよう!』 『へへッ、ようやく調子が出てきたみたいだな。オーケーだ才人! 始めようぜぇッ!』 下唇をぬぐったゼロが、クレッセントにぶつかっていく! 「ギイイイイイイイイ!」 クレッセントは太く鋭い爪が生えた手の平を振るって、ゼロに攻撃してくる。この一撃を もらったゼロが、ズザザザッ! と押し戻された! 『くッ、なかなかのパワーじゃねぇか』 『大丈夫か、ゼロ!』 『あったり前よ! 戦いはまだ始まったばっかりだ! おおおッ!』 気合いを入れ直して、ゼロは再びクレッセントへ肉薄していった! 「ギイイイイイイイイ!」 クレッセントは腕を振り回してくるが、ゼロは宇宙空手の動きで相手のパワーを巧みに受け流す。 そうして隙を作ったところで、首筋に速いチョップを見舞った。 「セアッ! ダァッ!」 「ギイイイイイイイイ!」 チョップからのローキックでクレッセントをひるませ、そこに相手の体幹に強烈な横拳をぶち込む! 「シェアァッ!」 「ギイイイイイイイイ!」 今度はクレッセントが押し出され、打たれたところを抑えて苦しんだ。 『その調子だ、ゼロ!』 『おう! どんどん行くぜ!』 ゼロは勢いに乗ってクレッセントを更に追い詰めようとしたが……クレッセントは途端に 両目から赤い熱線を発射して反撃してきた! 「ギイイイイイイイイ!」 『おわぁッ!』 かなり威力のある熱線だ! 流石のゼロも、その攻撃は耐え切れない! 「ギイイイイイイイイ!」 クレッセントは更に熱線を撃ち続けて、ゼロを激しく攻め立てる! ゼロが熱線と爆発に あおられて苦しめられる! ああ、カラータイマーも点滅を始めた! 『しっかりしろ、ゼロ! お前はあんな奴にやられるような奴じゃない! そのこと、俺がよく知ってるぜ!』 『ああ……その通りだ! まだまだぁッ! ここから反撃だッ!』 ゼロはわずかな攻撃の隙間を突いて、バク転の連続で熱線から逃れた! クレッセントは 追いかけて熱線を撃ってくるが、その時にはゼロも態勢を立て直していた。 『うらぁッ!』 クロスした腕で熱線を防御! これに動揺したクレッセントへ、アクロバティックな側転の 連続で懐へ飛び込む! 『せぇぇぇぇぇぇいッ!』 そこからの首投げが決まった! クレッセントは大きく宙を舞って地面に叩きつけられた! 「ギイイイイイイイイ!」 『おしッ! そろそろフィニッシュと行くぜぇッ!』 クレッセントが持ち直さない間に、ゼロが必殺光線の構えを取る! 左腕をまっすぐ左へ 伸ばしてから、右腕と合わせてL字のポーズを取る! 「シェアァーッ!!」 発射されるワイドゼロショット! この攻撃がクレッセントに直撃する! 「ギイイイイイイイイ!!」 ワイドゼロショットを浴びせられ続けたクレッセントの動きが完全に停止し、そのまま前のめりに倒れた。 ゼロの勝利だ! ゼロの勇姿が太陽の輝きに照らし出される! 『へッ、俺たちに勝とうなんざ、二万年早いぜ』 『やったな、ゼロ! やっぱりゼロは強いな!』 『これはお前の力でもあるんだぜ。俺たちの勝利なんだ!』 ゼロの言ってくれた通りだ……。俺も最近は頑張って、ゼロの力になっている。俺たち二人には、 向かうところ敵はいないぜ! けど、勝利で浮かれていたら……突然目の前が急速にぼやけてきた。 いきなり何だ!? 何が起きているんだ……。 ……才人が目を覚ますと、そこは豪奢なベッドの上だった。隣には、いつものようにルイズの寝顔。 「……ん、あれ……」 おもむろに身体を起こす才人。ぼーっ……とした眼差しで、辺りを見渡す。そこは、見慣れた ルイズの部屋だ。 「……ああ、アルビオンから魔法学院に帰ってきたんだった……」 「お目覚めかい、相棒。けど今朝はいつにもまして寝ぼけてるみたいじゃねえか」 壁に立てかけたデルフリンガーが話しかけてくると、才人は彼に告げた。 「いやぁ、久しぶりに故郷の夢を見てさ……しかもそれが、妙に現実感のある夢だったんだ。 ルイズがセーラー服着てたことくらいしか思い出せないんだけど……」 「へぇ? 今になってホームシックって奴かい、相棒? それとも、娘っ子にセーラー服 着せたい願望があるとか。あの時は楽しそうだったもんな」 「や、やめてくれよ。ちょっと思い出したくない……」 才人が以前のことを思い返して辟易していると、ウルティメイトブレスレットからゼロが声を上げた。 『才人、怪獣の出現だ!』 「何だって!? 本当か! ……ん?」 すぐに反応したかに見えた才人だが、不意に怪訝な顔になる。 『ぼやぼやしてる暇はないぜ。変身だ! 怪獣と戦うぜ!』 「……」 『場所はそう遠くないところみたいだな。直接飛んでいくぜ! ……って、おい。聞いてるのか? まだ寝ぼけてるのかよ』 才人がぼんやりとしているので、ゼロが呆れた。すると才人はゼロに尋ねかける。 「なぁ……こんなやり取りをどこかでやらなかったか? しかもつい最近」 『なーに言ってんだよ、お前……ん? 俺も何か既視感があるな……。はて、どこでこんなことを 言ったんだったか……』 ゼロも不思議に思って、一瞬黙る。が、すぐに我に返った。 『いや、今はこんなことしてる場合じゃないぜ。才人、すぐに出発だ!』 「あ、ああ、そうだったな。行くぞ、デルフ」 ベッドから飛び降りた才人がデルフリンガーを背負う。それから、まだスヤスヤと眠っている ルイズにそっと呼びかける。 「行ってくるな、ルイズ。すぐ戻るから」 それからブレスレットから出てきたウルトラゼロアイを装着し、ウルトラマンゼロへの変身を行う! 「デュワッ!」 青と赤の光は窓から外へと飛び出していき、大空で巨人の勇敢の戦士の姿へと変化する。 『よぉっし! ウルトラマンゼロ、出撃だぜッ! ……これも言ったことある気がする』 ゼロは怪獣出現の現場に急行しながら、そうぼやいた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9298.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十八話「よみがえったミスコン」 UFO怪獣アブドラールス 登場 ……この俺、平賀才人には今、一つ悩みがあった。それはルイズのことだ。 俺とルイズは何度か交流を重ねて、結構仲良くなった。するとキュルケの奴がそこに割って 入ってきて、ルイズと俺の取り合いを始めたのだ。そのことが悩みなのだ。 え? 女の子二人から取り合いをされる状況が悩みなんて、羨ましいって? いやまぁ、 普通だったら幸せな悩みってところなんだろうけど……ルイズとキュルケの場合は……。 「ダーリン、あたし教科書忘れちゃったの。見せてくれない?」 「な、何でサイトがあんたに見せなくちゃいけないのよ! 大体、席も離れてるじゃない!」 「ならルイズ、席代わってくれない? あんたはあたしの隣のファッションに見せてもらえばいいでしょ」 「えッ」 「よ、よよ、良くないわ! ツェルプストーに譲るものなんか何一つないんだからッ!」 ……と、こんな感じで来る日も来る日も、口喧嘩を繰り返して大騒ぎを起こしているのだ。 お陰でクラスは大迷惑だ。いつぞやなんかは、魔法を使った決闘紛いのことまで……。 ん? 魔法? いやいや、そんなファンタジーなことがある訳ないだろ。また夢かなんかと 記憶がごっちゃになってるのかな。最近多いんだよな……。 ともかく、ルイズとキュルケはいちいち張り合って喧嘩をするのだ。これは俺だけが原因ではなく、 何でもルイズとキュルケは昔馴染みで、その時から色々因縁があるんだとか。その二人が今になって、 日本の高校で鉢合わせなんて、奇妙な巡り合わせもあったもんだ。それでこっちはいい迷惑なんだが。 「また始まったか。しかも毎日毎日、似たようなことを繰り返して飽きないのか?」 クリスも呆れ返っている。モンモランシーが相槌を打った。 「ほんと、うるさくて敵わないわね。サイト、早くあれ、止めてよ」 「止められるもんならとっくに止めてる……」 俺はため息交じりに返した。あの二人、口論を始めると俺の話なんかには耳を傾けても くれないんだよな……。 ギーシュが肩をすくめて言った。 「やれやれ。これだから女性の扱いに慣れていない男は困る」 「お前に言われたくねーっての」 しょっちゅう他の女の子に声をかけて、モンモランシーを怒らせてるくせに……。 とは言っても、さすがにこのままにはしていられない。どうにか、ルイズだけでも止めようと思う。 「なぁ、ルイズ。そろそろ喧嘩はやめにしないか? 周りの迷惑になるだろ?」 しかし、案の定ルイズは反発した。 「うう、うるさいッ! あんたは一体誰の味方なのよッ!」 「味方ぁ?」 「そうよ! あんたがはっきりしないから、その、色々大変なんじゃないッ!」 そんなこと言われても……。ここでどっちかを選んでも、選ばれなかった片方がうるさい だろうしなぁ……。どうすりゃいいってんだ……。 途方に暮れていたら、矢的先生の助けが入った。 「こらッ! またルイズとキュルケが騒いでるのか!」 「あッ! ヤマト先生……」 矢的先生が叱りつけると、さすがのルイズたちも大人しくなった。何たって迫力が段違いだもんな。 「廊下にまで声が響いてるぞ。休み時間とはいえ、もう少し静かにするんだ」 「は、はい……」 「それと平賀、ちょっとこっちに来い」 「え? 俺ですか?」 ルイズとキュルケを黙らせてから、先生は俺を呼んで、教室の片隅でヒソヒソと囁きかけた。 「平賀、折り入って頼みがある。ルイズとキュルケの二人を、どうにか仲良くさせてやってくれないか?」 「えぇ!?」 「あいつたちの喧嘩の声がうるさくて仕方ないと、結構な苦情が来てるんだ。だからどうにか しないといけない。分かってくれ」 「で、でも、どうして俺なんですか……」 「二人と共通して仲のいいお前が一番打ってつけのはずなんだ。本当なら先生がやるべきことだが、 こっちは明男……大島の方に取りかかってて余裕がないからな……。お前に負担をかけてすまないとは 思うが、どうか頼む」 大島か……。クラスメイトの男子だが、勉強もスポーツも駄目なのを、「自分が宇宙人だから」 「自分の居場所はここではない」と現実逃避して目をそらす困った奴だ。さすがに先生も大島には 手を焼いているみたいだ。 そういうことなら、仕方ない。矢的先生たっての頼みとあっては、俺も断ることは出来なかった。 とは言ったものの、実際問題どうしたものか……。とりあえず俺は、何かアイディアの 手助けになるものはないかと図書室に来ていた。 「けど俺、調べものって苦手なんだよなぁ。何から手をつければいいのやら」 立ち並ぶ本棚を前に途方に暮れ、思わず独白していたら、 「図書室では静かに」 「わッ!? 不意に横から注意された。振り返ると、タバサが本を読んでいた。存在感がないから、 全然気づかなかった……。 「ご、ごめんタバサ。悪気はなかったんだ」 ひと言謝ると、タバサはすぐ本に目を落とした。タバサは本当に読書好きだな……。ここの本は もうあらたか読み尽くしていそうだ。 そうだ、タバサに相談してみよう。もしかしたらいいアイディアを出してくれるかもしれない。 駄目で元々だ。 「なぁ、タバサ。ちょっと相談あるんだけどいいか?」 「……」 タバサは沈黙したままだが、それを俺は許可したと受け取って、おおまかなところを説明した。 「……つーわけで、ルイズとキュルケの仲を何とかしたいんだよ。どうすればいいか、分かるかな?」 「……」 「……タバサさん、聞いてます?」 説明しても、タバサはうんともすんとも言わないので、聞いてもらえているのか不安になった。 それともやっぱり、タバサにもどうにも出来ないってことかな。タバサが思いつかないのなら、 残念だけどお手上げすることも……。 「コンテスト」 「わッ!? な、なに? いきなり」 そう思った途端に、タバサがひと言発した。いきなりしゃべるから、いちいちビックリするんだよなぁ……。 それにしても、コンテストって? 「仲良くする方法」 仲良くする方法って……あ、ああ、黙っていたのは、ずっと考えてくれていたからだったのか。 「それはつまり、写真とか歌とかで競うアレをしろってこと?」 「そう。二人はライバル。激闘を越えて友達になる」 「……はぁ」 意外だな、タバサの口からそんな少年漫画みたいな言葉が出てくるなんて……。 「だからコンテストをする」 「えーと、要するに平和的な対決で解決しろと?」 まぁ、本当に決闘なんかさせられないしな。落としどころとしては、妥当なのかもしれない。 「でも、平凡な勝負では、どっちも納得しない」 「ああ、そうだろうな……」 タバサの言ったことは容易に想像がつく。歌とか写真とかじゃ、採点基準や審査員にケチつける だろうし。機械の採点でもいちゃもんつけそうだ。 「じゃあ、タバサはどんなコンテストがいいって考えてるんだ?」 聞き返すと、タバサはまたひと言で答えた。 「ミスコンテスト」 「ミスコン!? それって、美人コンテストってこと?」 またまたタバサから意外な言葉が出てきた。普段のキャラからはちょっと想像つかないような 俗な提案だぞ。 「ん。この学園伝統のミスコンがある」 「へ? そうなの?」 「ちょっと待って」 席を立ったタバサは、薄い冊子を本棚からたくさん取ってきた。 「これ見て」 「これ、生徒会誌か。すごい量だな、学校開設から保存してるんだな」 「この本の、ここ」 タバサが指したページには、ミスコン優勝者の写真が纏めて掲載されてあった。 「……おおー! 歴代のミス高校がずらっと! レベル高いな~」 「優勝した方が勝ち。それなら、二人も納得する」 なるほど。学校の全員の総意から勝敗が決められるんだったら、あの二人も認めるだろう。けれど……。 「悪い話とは思わないけど、乗ってくれるかな? 下らないとか言われたらおしまいだぞ?」 そこが心配だ。二人とも、無駄にプライド高いからなぁ……。賛同してくれなきゃ元の木阿弥だ。 タバサも少し考えてから、告げた。 「……それなら、わたしから言う」 「えッ!? わたしからって……ああ、待てってタバサ!」 思い立ったが吉日を体現しようとしているように、タバサはスタスタと図書室から退出して いこうとする。思わず止めようとする俺だったが、その時、 「……ん? あれは何だ……?」 窓の外に、空を高速で横切る発光体を発見した。あれは……。 「はッ! UFOだ!」 間違いない! あれは円盤だ! それがこの町に降り立とうとしている! 俺の声が聞こえてか、引き返してきたタバサが青ざめた表情で円盤を見つめた。 「……ニュースで、スカンジナビア半島とメルボルンがUFOによって大きな被害を受けたとやってた……」 「何だって!?」 タバサからもたらされたのは、とんでもない凶報だった! その被害があの円盤によるもの だったなら……今度はこの町が、この学校が危ないぞ! しかも円盤は底部からリング状の光を放つと、その中から身体中に触手を生やした、軟体状の 不気味な怪獣が出現した! 「ヴイイイヴイイイ!」 あいつは……! 端末から情報を引っ張り出すと、UFO怪獣アブドラールスという奴だと分かった。 正体に謎が多いが、何より凶暴で非常に危険な怪獣とある! 「ヴイイイヴイイイ!」 案の定アブドラールスは両目から黄色い怪光線を撃って、町を焼き払い出す! こうはしていられない! 「タバサ、避難しよう!」 「うん……!」 俺はタバサとともに避難すると見せかけて、こっそり人気のないところへと移り、ウルトラゼロアイを 取り出した。 「よぉし! デュワッ!」 ウルトラマンゼロに変身し、アブドラールスへと挑んでいく! 『行くぜアブドラールス! はぁぁッ!』 まっすぐ突っ込んでいったゼロが先制パンチを繰り出すが、アブドラールスはヒラリとかわし、 ゼロの背にカウンターのパンチを入れる。 『うおぉッ!?』 今の一撃の威力は相当なもので、ゼロは地面の上をゴロゴロ転がった。 「ヴイイイヴイイイ!」 『くっそ……!』 すぐに起き上がったゼロはアブドラールスとじりじり睨み合う。そして機を見て間合いを詰めるが、 そこを読まれていたかのようにアブドラールスに捕まって後ろへ投げ飛ばされた。 『ぐぅッ!』 『ゼロ、大丈夫か!? しっかり!』 『あいつ、かなり出来るぜ……!』 アブドラールスはグネグネした見た目に反して、パワーもスピードも一級品だ。こいつはかなり 手強いぞ……! 「ヴイイイヴイイイ!」 アブドラールスは両目からの怪光線を連射してゼロを狙う。側転でかわすゼロだが…… 停止したところに一発もらってしまった! 『うああぁぁッ!』 光線の威力も危険なレベルで、ゼロはその場にうずくまる。そこをアブドラールスに 蹴り上げられて、バッタリと倒れ込んだ。 『ぐッ! はぁッ!』 くそ、本当に強いぜ……! ゼロをこんな一方的に苦しめるなんて……! ゼロがまともに動けなくなっている時に……不意に誰かの叫び声が聞こえた。 「僕だよ! 明男だよ!」 見ると、大島がアブドラールスに近い位置にいる。あいつ、あんなところで何やってるんだ!? 「地球人名、大島明男! 君の星の仲間だ! 迎えに来てくれてありがとう!」 大島は円盤とアブドラールスに向かって呼びかけている。 まさか、自分を宇宙人と思い込んでいるあいつは、円盤を自分の迎えに来たと思ってるのか!? 馬鹿なことを! 危険すぎるッ! 「明男! 何をするんだ、やめろ!」 そこに矢的先生が駆けつけて、大島を止める。だが大島自身はそれを振り払おうとする。 「放してよ先生! 僕の星から、僕を迎えに来てくれたんだ!」 「何を馬鹿なこと言ってんだッ!」 「放してよ先生ッ!」 聞き分けのない大島だが、アブドラールスが大島の仲間な訳がない。大島にも怪光線で攻撃する! 「ヴイイイヴイイイ!」 「あぁッ!?」 大島の右脚が焼かれた!? 「明男ッ!」 幸い、大島は矢的先生が抱え上げて安全な場所まで退避させていく。そしてこの間に、 ゼロが復活して立ち上がった! 『よくも才人のクラスメイトに手ぇ出しやがったな! もう怒ったぜ!』 怒りにたぎるゼロの電光石火のキックがアブドラールスの腹に食い込んだ! アブドラールスは 蹴りに押されて後退する。 『も一発!』 続けざまにもう一回キックを入れようとしたが、アブドラールスに足を捕らえられてすくい投げられる。 『くッ!』 「ヴイイイヴイイイ!」 アブドラールスと掴み合うゼロ。だがアブドラールスは、怪獣の体型で巴投げを決めて ゼロを放り飛ばした! 『ぬおあッ!?』 本当に何て手強い奴だ……! 怪獣なのに技まで持っている! 『何の! まだまだぁッ!』 けれどゼロは逆に発奮し、今度はこっちが相手を投げ飛ばした。すかさず必殺のウルトラゼロキックを 食らわせる! 『ぜああぁぁぁぁぁッ!』 「ヴイイイヴイイイ!」 飛び蹴りがクリーンヒットしたが、アブドラールスはまだ倒れない。ゼロは追撃を掛けようと詰め寄るが、 「ヴイイイヴイイイ!」 そこに至近距離から赤い光線を浴びせられ、ゼロがたちまち力を失ってしまう! 『ぐあぁぁッ! か、身体が痺れる……!』 麻痺光線だ! アブドラールスはここぞとばかりに動きの鈍ったゼロを散々に叩きのめす! 『ぐはぁぁッ……!』 腹部を踏みつけられるゼロのカラータイマーがとうとう鳴り出した。がんばってくれ、ゼロ! この町を救えるのは、お前しかいないんだ! 応援したのは俺だけじゃなかった。大島からの声も俺たちの耳に届いた。 「ウルトラマンゼロ助けて! 怪獣をやっつけてー!」 それを受けて、ゼロの身体に力が戻ってくる! 『ここで廃れてたらウルトラマンの名折れだ! おおおッ!』 気合いとともにアブドラールスをはね飛ばし、当て身! ひるんだアブドラールスは怪光線で 反撃するが、交差した腕で防御。 「セアァッ!」 そしてカウンターのワイドゼロショット! さすがのアブドラールスも大きなダメージを受ける! 『まだまだぁッ! ここからが正念場だ! うおおおぉぉぉぉぉッ!』 ゼロの身体が激しく燃え上がり、ストロングコロナゼロに変身を遂げた。そのパワーを乗せた 飛び蹴りが決まる! 「ヴイイイヴイイイ!」 アブドラールスも耐えられず、後ろにばったり倒れる。ほとんど力を失いながらもなおも 立ち上がるが、そこにゼロのとどめの一撃が繰り出された。 『ガァルネイト、バスタァァァ―――――!』 超破壊光線が突き刺さり、アブドラールスは今度こそ完全に力を失って倒れ込んだ。眼から光が消え、 絶命を果たす。 やった! ゼロの逆転勝利だ! 『そしてこいつでフィニッシュだぁぁぁッ!!』 振り向いたゼロは円盤に向けて、ゼロスラッガーのウルトラキック戦法を放つ! 宙を切り裂いて 飛んでいったスラッガーが、円盤を木端微塵に破壊した! これで敵は全てやっつけた。完全勝利だぜ……! 「やったぁーッ! あッ……!?」 ゼロの勝利を大島も喜んでいたが、途端に撃たれた脚を抑えてその場にうずくまった。 大島……!? 負傷が想像以上に深かった大島は、病院に担ぎ込まれた。緊急手術を受ける大島。大丈夫だろうか……。 気を揉んでいたら、手術室の外で待つ俺たちの元に看護師さんが血相を抱えてやってきた。 「輸血が必要です! 供血をお願いします。血液型がO型の方はいらっしゃいませんか?」 血が足りないのか! でも俺の血液型じゃない……。 すると、博士、落語、ファッションが名乗り出た。 「僕、O型です!」 「僕もです!」 「私もです!」 大島のお母さんがお礼を言う。 「みんなありがとう。私もO型です」 「じゃあこちらへお願いします」 四人が看護師さんに連れられて、手術室に入っていく。よかった、O型の人がこんなにいて。 「矢的先生は何型ですか?」 「僕は、その……」 俺は血を分けてやることは出来ないけれど、それでも大島の助けになりたい。ゼロ、もう一度 力を貸してくれ! 『分かった。俺もちょうど、そうしなきゃいけないような気がしたところだぜ!』 俺はこっそり病院の外に出ると、再度ゼロへ変身。残ったエネルギーを治癒光線に変換して、 大島に浴びせた。 これで大島は大丈夫だ。後は回復する時を待とう。 それからすっかりと容態が良くなった大島は、入院前よりもむしろ元気になって帰ってきた。 みんなからの輸血で一命を取り留めたことと、矢的先生からの説得で自分が宇宙人を自称していたのを、 現実逃避していただけだということを受け止め、前を向くことが出来るようになったんだ。大島が自分と 向き合い、成長を遂げたことに先生も喜んでいた。 そうそう、忘れちゃいけないのが俺の方の課題だ。タバサが提案した、ミスコンはどうなったかと言うと……。 「ミスコンね。あたしそういうの大好き! 勝つ自信だってあるもの」 まずキュルケが意欲を見せて、ルイズに告げた。 「タバサはどうしてこういうこと言い出したか分からない? いい加減白黒つけろってことでしょ? それで、どうするのルイズ?」 「い、い、いいわ! 受けて立つわよ! ツェルプストーの挑戦を断るなんて、ヴァリエールの名が 泣くんだから!」 と、ルイズも参加を表明し、無事に二人に勝負の場を用意することが出来た。 これで第一関門は突破だが、目的の二人の仲を取り持つことが出来るかどうかはここからだ。 はてさて、ミスコンを通してどんな結果をたどることになるのだろうか……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9139.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十五話「全滅!ウルティメイトフォースゼロ」 双頭合成獣ネオパンドン 暴君怪獣タイラント 宇宙大怪獣アストロモンス 宇宙大怪獣改造ベムスター 光熱怪獣キーラ 宇宙スパーク大怪獣バゾブ 地獄星人ヒッポリト星人 登場 地下から劇場を突き破って出現した怪獣ネオパンドンは、二つの首から赤と青の炎を吐いて 建物を焼きながら、王宮への進撃を開始した。その背中を、劇場崩落のどさくさに紛れて 逃げおおせたリッシュモンがながめる。 「あの小娘のせいで予定が大幅に狂ったが、問題ない。そのまま王宮を焼き払ってしまえ」 自分を陥れたアンリエッタへの憎悪をたぎらせながら、両手に抱えている装置に念をこめた。 それに合わせてネオパンドンがけたたましく咆哮し、進撃の歩を早めた。 リッシュモンが持っているのは、ネオパンドンを操作するコントロール装置。元々はゴース星人が 使っていたものを、ある作戦を進めるヒッポリト星人に与えられた。持つ人間の憎悪が深いほど、 ネオパンドンは激しく暴れ回るのである。 本来の計画では、アルビオンへの亡命の用意が済んだところで、ネオパンドンを直接王宮に 出現させて、トリステインの中枢を破壊し尽くすはずであった。しかし、このまま王宮を襲わせれば、 結果に変わりはない。王宮の破壊が完了したら、手筈通りアルビオンへ国外逃亡するだけだ。 「その前に、一つ仕事を片づけんとな……」 王宮の襲撃はこのままネオパンドンに任せ、リッシュモンはヒッポリト星人が、力を与える 条件として言いつけてきたある「任務」を遂行するため、また、追っ手から逃れるためにその場を離れた。 「サイト! 怪獣がまたトリスタニアに!」 ネオパンドンの出現はもちろん、ルイズと才人も気がついていた。アンリエッタたちが リッシュモンを逮捕するために動いていて、今回は出番なしかと思っていたが、こうなったからには ウルトラマンゼロの出番だ。 ネオパンドンは、既に王宮の目と鼻の先に迫っている。魔法衛士隊が慌てて攻撃を仕掛け、 足を止めようとしているが、ネオパンドンは振り返りもしなかった。 『サイト、行くぜ!』 「おう! デュワッ!」 人気のない裏道で、才人は素早くウルトラゼロアイを装着し、ウルトラマンゼロに変身した。 「デヤァァァー!」 「キィィィィッ!」 変身直後の飛び蹴りがネオパンドンの胸部に刺さり、ネオパンドンは後ろに蹴り飛ばされて 王宮から離された。ゼロは王宮の前に着地して、盾となる。 『ここから先には一歩も通さねぇぜ! さぁ来やがれッ!』 「キィィィィッ! キィィィィッ!」 啖呵を切って挑発するゼロ。それに煽られたかのように、ネオパンドンはすかさず起き上がって ゼロに突進を仕掛けていった。 「ぃよい……しょっとぉッ!」 内側から崩落し、見る影もなくなった劇場跡の瓦礫の山から、グレンが馬鹿力を発揮して 瓦礫を下から押しのけた。かばったアンリエッタに手を差し出す。 「怪我はねぇか? ったく、あのタヌキジジイ、とんでもねぇことしやがるな」 「は、はい……ありがとうございます……」 頬を赤らめて手を取り、瓦礫の山から這い出すアンリエッタ。それからグレンと協力し、 同じく瓦礫の下敷きとなった銃士隊員たちを救出する。不幸中の幸い、重傷の者はいなかった。 「皆の者、無事ですね?」 「陛下! 大変です!」 状況を確認した銃士隊員の一人が、息せき切ってアンリエッタに報告した。 「リッシュモンが見当たりません! 騒動に紛れて、逃亡を図ったものかと!」 「何ですって!?」 驚愕するアンリエッタ。ここでリッシュモンを取り逃がし、アルビオンへと逃げられたら、大変なことになる。 「まだそう遠くへは行ってないはずです! すぐに港へ続く道を封鎖! リッシュモンの邸宅も 押さえなさい! 残りはリッシュモンの捜索を! 別行動のアニエスにも連絡を!」 「はッ!」 銃士隊は速やかに命令に従い、バラバラに駆け出していった。アンリエッタとグレンは、 未だ暴れるネオパンドンを見やる。ちょうどゼロと組み合ったところだ。 「あっちはゼロが相手してるな。なら安心だぜ。俺もジジイを捜すの手伝うぜ!」 「重ね重ね、感謝致します。ではわたくしたちも行きましょう」 広いトリスタニアから一人を見つけ出すには、人手は一人でも欲しい。アンリエッタも グレンとともに捜索を開始した。 「デヤッ!」 ゼロが突き飛ばしたネオパンドンにゼロスラッガーを投擲する。これまで幾多の怪獣に とどめを刺してきたふた振りの宇宙ブーメランは、空を切り裂いてネオパンドンへ飛んでいく。 早速勝負を決める気か。 「キィィィィッ! キィィィィッ!」 しかしネオパンドンは素手で、両方のスラッガーをはっしと掴んで止めた! 『何ッ!?』 十八番の武器が怪獣に掴まれて止められたことに驚きを禁じ得ないゼロ。ネオパンドンが スラッガーを投げ返し、頭に戻る。 「キィィィィッ! キィィィィッ!」 ゼロスラッガーを破ったことで、ネオパンドンは得意になっているようであった。身体を上下に 小刻みに動かし、嗤うように鳴き声を上げる。 『へッ、少しはやるみたいだな……。上等だ!』 下唇をぬぐったゼロは落ち着きを取り戻し、ネオパンドンに正面から飛び込んで格闘戦を挑んだ。 『うらッ!』 「キィィィィッ!」 取っ組み合うゼロとネオパンドン。だがネオパンドンの筋力はかなりのもので、すぐにゼロを押し返す。 ゼロの体勢が崩れたところで、側頭部に強烈なパンチを入れた。 『うぐッ!』 傾いたゼロをそのまま引き倒し、その上に飛び乗って全体重を掛けて踏みにじる。 『うぐおぉぉッ! この野郎ッ!』 げしげしと蹂躙されるゼロは力ずくでネオパンドンを己の上からどかしたが、直後に蹴り上げを 食らって蹴り飛ばされた。 「キィィィィッ! キィィィィッ!」 転がっていったところに赤と青の火炎弾を連続発射するネオパンドン。爆発と炎上がゼロを襲う! 『ぐぅぅぅぅッ!』 熱と衝撃に晒されて苦しみながらも、ゼロは果然と立ち上がった。 『くそぅ……すげぇパワーだな』 ネオパンドンは遺伝子操作により、素の能力の時点で元のパンドンよりパワーアップがなされている。 その上、コントロール装置からリッシュモンの悪しき思念が送られ続けており、それで更に力を増している。 そのため、パンドンからは戦闘レベルが数段も上昇しているのだ。普通の怪獣とは訳が違う。 『だが、ただの力任せじゃあ、このウルトラマンゼロには敵わねぇぜ! イヤァッ!』 しかしゼロの闘志は少しも揺るがない。宇宙拳法の構えを取り直して再度ネオパンドンに飛び掛かり、 今度は相手の攻撃を受け流すことに集中する。 「キィィィィッ! キィィィィッ!」 ブンブンと腕を振り回して打撃を見舞うネオパンドンだが、そんな単純な攻撃は、いくら力があろうと 宇宙拳法の達人のゼロに呆気なく受け流された。そしてゼロは相手の隙を突き、片腕をはっしと捕らえて、 「デヤァァァァァッ!」 一本背負い! ネオパンドンの巨体が大きく宙を舞い、空き地の上に落下した。そして立ち上がる相手に、 エメリウムスラッシュの一撃! 「キィィィィッ!」 光線が直撃して、さしものネオパンドンも動きを止めた。この隙に、ゼロは一発逆転の大技を繰り出す。 『フィニィッシュッ!』 ゼロスラッガーを宙に放って固定。そしてジャンプして横薙ぎのキックを入れた。ウルトラキック戦法だ! 超加速したスラッガーを目で捉えることが出来ず、ネオパンドンは胸部を貫通された。 そのまま後ろにバッタリと倒れ込み、爆発四散する。 『ふぅ……思ったよりも苦戦したぜ』 着地したゼロの頭にスラッガーが戻り、ゼロは大きく息を吐いた。これでトリスタニアは救われ、 リッシュモンの陰謀は粉砕された……。 といつもならなるところだが、今回は違った! 突如ゼロの背後の地面が裂け、そこから フックつきのロープが飛んできたのだ! 『なッ!?』 ロープはゼロの首に巻きつき、締めつける。突然の事態に激しく動揺するゼロ。 『な、何事だ!?』 首を絞められて苦しみながらも、背後に振り返って状況を確認する。その時に激しい地揺れが起こり、 地面の裂け目が広がった。 「キイイイイィィィィッ!」 そしてその裂け目より、五体のパーツに一貫性がなく不自然につなぎ合わされている、 丸で複数の人形をバラバラにしてパーツを一つずつ組み合わせたかのような異形の怪獣が 地上へ這い出てきた。ゼロの首を絞めるロープは、その怪獣のトゲつき鉄球になっている 左手から伸びていた。 『あいつは……タイラント!』 ゼロが驚愕して叫んだ。大宇宙の凶悪暴君と呼ばれる大怪獣。凶悪無比! その頭はシーゴラス。 そしてその腕は超獣バラバ。胴は恐るべき宇宙大怪獣ベムスターのものだ。それが怪獣たちの怨念が 結集して誕生した、恐るべき合体怪獣タイラントである! 「キイイイイィィィィッ!」 タイラントが地上に上がると、その後ろに続いて、更に怪獣たちが出現する。 「キュイイイイイイ!」 甲虫が直立したような姿で、黄色く大きな両眼が爛々と顔面に輝く怪獣、キーラ。 「カ―――ギ―――――!」 タイラントの胴体になっている、恐るべきベムスター。それもただのベムスターではない。 ヤプールの手による改造が加えられて更に強力になった、改造ベムスター! 「キイイィィィ!」 左腕が鎌、右腕が鞭、そして腹部が巨大な花となっている、超獣よりも強い大怪獣アストロモンス。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 頭部が胴体と比較して異様に大きく、悪魔のような形相をしている怪獣、バゾブ。 以上の五体の怪獣が地中から出現し、ゼロの前に並んだ。 『こいつら、宇宙怪獣じゃねぇか! どうして地中から出て来るんだ!?』 疑問に思うゼロだが、今はそんなことを気にしていられる状況ではない。大怪獣軍団は、 示し合わせたようにゼロへの攻撃を開始したのだ。 「キイイイイィィィィッ!」 タイラントがロープを引っ張り、ゼロを横転させて市中を引きずり回す。ゼロが無惨にやられる様に、 避難している民たちが悲鳴を上げた。 『うおおおおッ! くッ、ふざけやがってぇ!』 振り回されてボロボロにされるゼロだが、どうにかロープを首から解いて引き回しの刑から脱した。 しかし、それを待っていたとばかりに残りの怪獣たちが一気に攻撃してくる。 「キュイイイイイイ!」 キーラが大きな目を一旦閉じ、そしてカッ! と開く。それに伴って眼球から強烈な閃光が発せられた。 『うああぁぁッ!? くそッ、目がッ!』 真正面から閃光を浴びたゼロは、目を焼かれて視界を失ってしまった。敵を見失って立ち尽くす 彼にアストロモンス、改造ベムスター、バゾブが迫る。 「キイイィィィ!」 『ぐああぁぁぁッ!』 アストロモンスが鞭でゼロをビシバシ叩いた上に、花から噴射される消化液を食らわせた。 「カ―――ギ―――――!」 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『うおああぁぁぁぁッ!』 改造ベムスターは目からレーザーを、バゾブは頭頂部のマゲのような触覚から電撃光線を放って ゼロの身体を焼く。 「キイイイイィィィィッ!」 『ぐああああああああ――――――――!』 最後にタイラントが口から放射する爆炎を食らって、ゼロは大きく吹っ飛ばされた。 さすがのゼロも、五対一では多勢に無勢。怒濤の攻勢に押され、カラータイマーが点滅を始める。 リッシュモンの捜索中だったグレンだが、ゼロの苦戦を目の当たりにして、大きく舌打ちした。 「ゼロがやべぇぜ! アンリエッタ姫さん、悪いが手伝いはここまでだ。俺はゼロの加勢に行く!」 「ええ。どうかトリスタニアをお願いします!」 アンリエッタにひと言断って、グレンは戦場へと駆けていく。途中で高く手を掲げて、 変身のために叫んだ。 「ファイヤァァァ―――――――!」 ウェールズの肉体が赤く発光し、グルグルときりもみ回転しながら巨大化。燃えるマグマの戦士、 グレンファイヤーへと変わった! 「キイイイイィィィィッ!」 タイラントを先頭に、五体の怪獣は伏しているゼロへ迫る。その前に、グレンファイヤーが立ちはだかった。 『こっから先は通行止めだぁー!』 『はぁぁぁッ!』 『ジャンファイト! ジャァンナックル!』 グレンファイヤーと同時に、ミラーナイトとジャンボットも戦場に駆けつけた。グレンファイヤーは タイラントと改造ベムスターに激突して押し返し、ミラーナイトはミラーナイフでキーラとバゾブを迎撃、 ジャンボットはジャンナックルをアストロモンスに食らわせた。 「キイイイイィィィィッ!」 「キュイイイイイイ!」 「キイイィィィ!」 押し返された怪獣たちはひるんで動きを止めた。その間に、グレンファイヤーがゼロに肩を貸して立たせる。 『ゼロ、大丈夫か?』 『ああ……まだ戦えるぜ……!』 ゼロは負傷が激しいが、戦闘続行できないほどではなかった。ウルティメイトフォースゼロの四人は その力を一つにして、怪獣軍団へと立ち向かっていく! 『うらぁぁぁぁッ!』 「キイイイイィィィィッ!」 「カ―――ギ―――――!」 ゼロは一瞬燃え上がってストロングコロナゼロに変身し、タイラントと改造ベムスターに殴りかかった。 二体の怪獣は、ストロングコロナの超パワーによって押し返されていく。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『ぐおおおぉぉッ!?』 バゾブがジャンボットに近づくと、それだけでジャンボットはショートし、大きく苦しんだ。 『この怪獣……触覚から強力な電磁波を放っているな! 私のようなロボットの天敵といったところか……!』 バゾブは常に電磁波を放出し、自身の周囲に機械を狂わせる磁界を形成している。その影響は、 エスメラルダが誇るスーパーロボットのジャンボットといえども苦しむほどであった。 『おらぁぁぁー!』 「ギュルウウ!」 ジャンボットが危ないところを、グレンファイヤーがバゾブに体当たりして引き離したことで救った。 『こいつの相手は俺が引き受けるぜ、焼き鳥!』 『私の名前はジャンボットだと言っている!』 戦闘中でもいつも通りの二人。バゾブはグレンファイヤーに任せて、ジャンボットは背後から 迫っていたキーラに振り返って、ショルダータックルをお見舞いした。 『せいッ! はぁッ!』 「キイイィィィ!」 ミラーナイトはアストロモンスの鞭と鎌の振り回しをくぐって、水平チョップを喉に炸裂した。 更に腹部の花に連続パンチを入れて悶絶させた。 「うおー! いいぞー!」 五体もの恐るべき敵が相手でも、ウルティメイトフォースゼロは一歩も退かない。彼らの善戦に 民たちが歓声を上げた。 だが四人が一旦身を寄せたところで、事態は急変した。 「キョオオオオオオオオ!」 怪獣たちのものではない鳴き声がどこかから響くと、四人の頭上に突然巨大なカプセルが出現したのだ! 『何ッ!?』 ゼロたちがかわす間もなく、カプセルは一人ずつに覆い被さって、四人は瞬く間に閉じ込められてしまった。 これにトリスタニアの全ての人間が驚愕する。 『フハハハハハ! ハーハッハッハッハッハッ!』 そんな中、一人だけ高笑いする者が。怪獣たちの中央に、巨大化したヒッポリト星人が出現したのだ。 『まんまと罠に掛かったなぁ、ウルティメイトフォースゼロ!』 『テメェはヒッポリト! そうか、ここまでの全部が、お前の罠だったのか……!』 『今頃気がついても、遅すぎるぞ!』 カプセルの中で悔しがるゼロ。ネオパンドンも、タイラントたち怪獣軍団も、全てはゼロたち全員を 誘き出して、ヒッポリトカプセルで捕獲するためのものだったのだ。 『残念だなぁ。自分で自分の最期は見られないだろう。俺は貴様らの最期を、ゆっくりと見せてもらうぞ!』 ヒッポリト星人の頭頂部の触角が光ると、カプセルに液体がしたたり始めた。液体がゼロたちの 身体に触れると、そこがカチカチに固まっていく。どんなものでも固めてブロンズ像にしてしまう、 ヒッポリト星人の恐怖の武器、ヒッポリトタールだ! 『うあああああッ! や、やばいッ!』 『苦しめ! 苦しめ! だんだん死んでいくのだぁー!』 圧倒的優位に立ち、ゼロたちの焦りもがく様を楽しむ、残虐なるヒッポリト星人。そしてゼロたちを 救出する者は、もういない。ウルティメイトフォースゼロは全員捕まってしまったのだ! 『くっそぉッ! どうにかして脱出しねぇと……!』 ゼロたちは必死にカプセルからの脱出を図る。が、彼らがどんな抵抗をしても、カプセルはびくともしない。 『無駄だぁ! ヒッポリトカプセルは、内側からは絶対に壊せんのだぁ!』 ウルティメイトフォースゼロの抵抗を嘲笑い、勝利を確信したヒッポリト星人は、怪獣たちに命令を下す。 『邪魔者はもういない! 怪獣たちよ、この街を焼き払ってしまえぇー!』 「キイイイイィィィィッ!」 タイラントたちが再び動き出し、トリスタニアに火を放っていく。 「うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――!」 「きゃああああああ――――――――――!」 怪獣軍団に街を蹂躙されていき、人間たちからは大絶叫が巻き起こった。魔法衛士隊が必死に 攻撃を仕掛けるも、精神力を振り絞っても五体もの怪獣を止めることは、彼らには出来なかった。 『うるさいハエどもだ! 叩き落としてくれるッ!』 しかもヒッポリト星人が合わせた両手からヒッポリトミサイルを発射し、騎士たちを撃墜する。 「うわああぁぁぁぁ―――――――!」 『やめろぉーッ! くそぉーッ!』 絶叫するゼロだが、今の彼では、冷酷なヒッポリトの軍勢の暴虐を阻止することは出来ないのだ。 それどころか、己の死が間近に迫っている。 「何てこと! ゼロたちが、一網打尽に……!」 ほとんどの市民が逃げ、無人のチクドンネ街の一画で、ルイズは絶望的な光景を見上げていた。 このままではウルティメイトフォースゼロは全滅し、最悪の結末がやってくる。 竜騎士の何人かはカプセルを攻撃し、ゼロたちを解放しようとしているが、彼らの火力では 破壊は叶わなかった。しかし、それが出来る者がこの場に、たった一人だけいる。 「待ってて、みんな。わたしの『爆発』なら……!」 キングジョーをも粉砕した虚無の『爆発』ならば、カプセルの破壊も出来るはずだ。そう考えて、 ルイズは呪文を唱え始めた。実際、ヒッポリトカプセルは内側の耐久を重視しており、外側からの 衝撃にはそこまで強くない。ルイズならば助け出せるだろう。 だが、ヒッポリト星人の狡猾な策略は、ルイズにまで及んでいたのだ。 「見つけたぞぉ!」 突然野太い男の声が聞こえたかと思うと、足元に火の球が飛んできて炸裂した。それによって ルイズは倒れ、呪文が中断される。 「きゃあッ! な、何!?」 振り返ると、リッシュモンがこちらに杖を向けていた。 「リ、リッシュモン高等法院長!? どうしてこんなところに……!?」 目を丸くするルイズだが、聡明な彼女はすぐに察しが行った。リッシュモンは敵の間諜で、侵略者の手先なのだ! 「法院長は既に元だよ。残念ながら、つい先ほど罷免を受けてな」 リッシュモンはうそぶき、ルイズを冷酷な目つきでにらむ。 「ラ・ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ。間違いないな。こんなちっぽけな小娘が、 最も警戒すべき人間とは……世の中とは不思議なものだ。まぁよい。お前を捕まえ、ウチュウ人どもに 差し出す、それだけで法院長時の収入とは比較にならん莫大な富が手に入るのだ。何とも簡単な仕事よ」 リッシュモンは、ルイズを捕らえに来たのだ。ルイズは一気に青ざめる。 これまでのゼロたちの窮地の内の何度かは、ルイズの虚無の魔法でひっくり返した。虚無は既に、 ゼロたちの最後の切り札になっている。しかし敵はとうとう、ルイズへの対策も取ってきた。 今ここでルイズがやられてしまえば、本当にウルティメイトフォースゼロはおしまいだ! 「くッ……!」 リッシュモンに杖を向けるルイズだが、リッシュモンは相変わらず冷たい視線を向けた。 「やめておくといい。私はもう呪文を唱え終えた。後は解放するだけだ。どう考えても、私の魔法の方が早いぞ。 変に抵抗するんじゃない。もし死んでしまったら、ウチュウ人どもにケチをつけられるかもしれないではないか」 それがハッタリではないことは、ルイズにも分かる。身動き一つ取れない、絶体絶命の状況。 その間にも、ゼロたちはブロンズ像に変えられつつある。 このままトリステインは、最後の日を迎えてしまうのだろうか? 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9034.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十一話「ゼロ暗殺計画」 凶悪宇宙人ザラブ星人 登場 道中バードンの襲撃を受けた『イーグル』号だが、ウルトラマンゼロに助けられたことで犠牲は出なかった。 そして遂に空飛ぶアルビオン大陸までたどり着くと、大陸の抜け穴を通ってニューカッスルの秘密の港に到着した。 とうとう目的の場所へ到達したルイズたちなのだが、彼女らは大量の硫黄を入手したことによるウェールズと 家臣の会話を耳に挟んで衝撃を受けた。 「これだけの硫黄があれば、王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、敗北することができるだろう」 「栄光ある敗北ですな! この老骨、武者震いがいたしますぞ」 何と、ウェールズたち王軍は敗死するために戦うつもりなのだった。戦力の差は百倍以上。 万に一つも勝ち目はないという……。そのためルイズは、アンリエッタの手紙を返却してもらった際に、 アンリエッタの気持ちを察してウェールズに亡命を強く勧めたが、皇太子の務めを最期まで果たすためと 貴族派にトリステインへ攻め込む口実を与えないようにと考えるウェールズにあえなく断られてしまった。 そして開かれる、王党派の最後の晩餐会。それに出席を許された才人は、ワルドから信じられないことを告げられた。 「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 才人は一瞬、何を言われているのかわからなかった。 「こ、こんなときに? こんなとこで?」 「是非とも、僕たちの婚姻の晩酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。 皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式を挙げる。きみも出席するかね?」 その問いに、才人は否定で答えた。 「ならば、明日の朝、すぐに出発したまえ。きみとはここでお別れだな」 ワルドはそれだけ告げて去っていく。才人はその後ろ姿に、見えなくなるまでじっと目をやっていた。 その後、才人は真っ暗な廊下の途中で、ルイズが月明かりに照らされながら涙を流していた。 才人に気づいて目頭をぬぐうが、また涙が零れてきて、才人の体にもたれかかった。 「なんで泣いてんだよ……」 才人が聞くと、ルイズは泣きじゃくりながら尋ねかける。 「いやだわ……あの人たち……どうして、どうして死を選ぶの? わけわかんない。姫さまが 逃げてって言ってるのに……恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」 「大事なものを守るためだって、言ってた」 「なによそれ。愛する人より、大事なものがこの世にあるっていうの?」 「そんなの、俺にわかるもんか。王子様が考えることなんて、俺にはわかんねえよ」 「わたし、説得する。もう一度説得してみるわ」 「ダメだ。お前は手紙を姫さまに届けなくちゃいけないだろがよ。それがお前の仕事だろ」 そう言われては、ルイズも返す言葉がない。そのため、今度はゼロに向けて言う。 「ゼロ、聞いてるんでしょ? このままだったら、ウェールズ皇太子が、姫さまの愛した人が死んじゃうわ。 でも、あなただったらそれを覆せるでしょ? あれだけの力があれば、貴族派の兵士が何万いたって…… 姫さまのために、貴族派を追い払ってよ。アルビオン王家に、勝利をもたらしてあげて」 ルイズの心からの、必死の頼みだったが、ゼロは本当に申し訳なさそうに返答した。 『悪いが、それは、それだけは出来ない』 「……! 何でよッ! このままじゃ、みんな死んじゃうのよ!? それを見殺しにするつもり!?」 激昂するルイズに、ゼロは理由を話す。 『俺のような、別の星、文明からやってきた人間は、その星の文明に過度な干渉をしちゃいけないんだ…… どんな形であっても。それが宇宙の絶対の掟。これを破ったら、どんな理由があろうと、 クール星人どものような侵略者と変わらなくなっちまう。戦争でどっちかの勢力に肩入れするなんて、 もっての外だ』 ウルトラ戦士は長い年月、地球を怪獣、宇宙人の脅威から救ってきた正義の味方だが、 彼らが地球人の盾となるのは必ず「人類の手には負えない、超常的な力」が相手の時だけだった。 地球人同士の争いや政治に介入したことは一度としてない。 何故なら、それをすることは、人類の主権を侵害することであるからだ。その文明の水準をはるかに超える文明が、 力で以て星の行く末を誘導しようとするのは、たとえ善意での行いであってもその星の権利と尊厳を踏みつけ、 奴隷か都合の良い操り人形にすることになる。星の未来は、あくまでその星の住民が作っていかなければならないものだ。 だから歴代のウルトラマンは、地球の運命を、何らかの理由をつけて正当化して捻じ曲げようとする者を 誰であろうと許さなかったし、地球の未来に関わろうとする時には必ず、わざわざ地球人と同じ立場に立つようにしてきた。 それもこれも全て地球人のため。ゼロもこのハルケギニアでそれに倣うし、倣わなければいかない。 しかしルイズは、特に感情が高ぶっている今は、ゼロの言い分に納得できなかった。 「何よそれッ! 結局あなたも、自分のことしか考えてないってことでしょ!? そうよ、 この国の人たちと同じ……誰も彼も、自分のことしか考えてない。残される人たちのことなんて、 どうでもいいんだわ」 才人はそうじゃないと思ったが、ルイズにはどうあってもウェールズらの思いは理解できないだろうから、 余計なことは言わなかった。ゼロも同じだ。 ひとしきり泣いたルイズは、次のことを口にする。 「ワルドがここで結婚式を挙げるって言ってたけど、とてもそんな気になれないわ。第一、 まだ結婚なんてできない。立派なメイジになれてないし……。サイト、あんたとゼロのこともあるし……。 結婚したら、ワルドにもゼロのことを教えないといけなくなるわ」 ルイズはゼロの秘密のために、結婚をしないつもりのようだ。だから才人は、あえてこう言う。 「いいよ。俺たちのことは気にしてくれなくたっていい。だからお前は結婚しろ」 「なによ! あんたはわたしの使い魔なんだから勝手なこと言わないで! きちんと、あんたが帰るその時までは、 わたしを守ってもらいますからね!」 「俺じゃあ、お前を守れない」 才人はきっぱりと言った。 「俺自身は、伝説の使い魔だ、『ガンダールヴ』だ、なんて言われたって、結局は普通の人間だ。 あの子爵みたいに強いメイジでもなんでもない。だから、子爵に……向こうが本気でお前を守るってんなら…… そっちに守ってもらった方がいい」 ルイズは才人の頬をぱちーんと叩いた。 「意気地なし!」 だが才人は表情を変えない。 「ルイズ、ここでお別れだ。俺は『イーグル』号で帰る。帰ったら、ゼロと一緒に怪獣退治の旅に出る。 今まで世話になったな」 「ばか!」 ルイズは怒鳴った。目からぽろぽろ涙が溢れた。それでも才人は撤回しなかった。 「あんたなんかきらい。だいっきらい!」 「知ってるよ」 ルイズはくるりと踵を返すと、そのまま暗い廊下を駆け出していった。 翌朝、太陽が水平線から顔を出してすぐの時間の礼拝堂に、ウェールズ、ワルド、そしてルイズの三人だけがいた。 これからワルドとルイズの結婚式が行われる。ルイズは戸惑ったものの、自暴自棄な気持ちが心を支配していたので、 深く考えずにここまでやってきた。 「では、式を始める」 ウェールズの進行で、結婚式が始まった。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、 このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 「誓います」 ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と……」 朗々と詔が読みあげられるが、ルイズの意識はそれに集中していなかった。彼女はこの場に及んでも、 ワルドとの結婚に現実感を抱いていなかった。 ワルドのことは嫌いではない。しかし今は、ひどくせつない気持ちだ。それは何故か? そう考えていると、才人の顔を思い出して顔を赤らめた。ようやく、昨晩に才人の胸に飛び込んだ理由に気づいた。 でも、それはほんとに気持ちなのか? わからない。わからないのに、式が続いている。 ルイズはこの迷いの答えを、自分で決めねばならないことを理解した。そして深く深呼吸して決心し、 詔の途中で首を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 怪訝な顔で顔を覗き込んだワルドに向き直ったルイズは、悲しい表情を浮かべた。 「ごめんなさい、ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」 いきなりの展開に、ウェールズは首をかしげた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」 はっきりと口にすると、ワルドの顔に、さっと朱がさした。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 ウェールズが告げるが、ワルドはそちらに見向きもせずに、ルイズの手を取った。 「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。きみが、僕との結婚を拒むわけがない」 「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うわ」 するとワルドは、今度はルイズの肩をつかんだ。その目がつりあがる。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためにきみが必要なんだ!」 ルイズは、ワルドの突然の豹変振りに思わず怯えた。 「……わたし、世界なんかいらないもの」 「僕にはきみが必要なんだ! きみの能力が! きみの力が! きみは始祖ブリミルに劣らぬ、 優秀なメイジに成長するだろう! きみは自分で気づいていないだけだ! その才能に! きみの才能が僕には必要なんだ!」 「ワルド、あなた……」 ワルドの言葉で、ルイズは自分が虚無の魔法の使い手だという可能性がある、ということを思い出した。 そうすることで、ワルドの本心を理解して顔をゆがめた。 「そんな結婚、死んでもいやよ。あなた、わたしをちっとも愛してないじゃない。あなたが愛しているのは、 あなたがわたしにあるという、魔法の才能だけ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱はないわ!」 ただならぬ事態に、ウェールズがワルドを引き離そうとした。しかし、ワルドに突き飛ばされ、 顔に赤みが走って杖を抜いた。 「うぬ、なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 ワルドは、そこでやっと手を離した。優しい笑顔を浮かべるが、それは嘘に塗り固められていた。 「こうまで言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」 はねつけられ、ワルドは天を仰ぐ。 「この旅で、きみの気持ちをつかむために、随分努力したんだが……こうなってはしかたない。 目的の一つは諦めよう」 「目的?」 ワルドの笑みが禍々しく変化する。 「そうだ。この旅における僕の目的は三つ。一つはルイズ、きみを手に入れることだ。 しかし、これは果たせないようだ」 「当たり前じゃないの!」 人差し指の次にワルドは、中指を立てた。 「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」 ルイズははっとした。 「ワルド、あなた……」 「そして三つ目は……」 すべてを察したウェールズが、杖を構えて呪文を詠唱した。 しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させると、 風のように身を翻らせ、ウェールズの胸に杖を突き立て……。 「ワルドッ! てめえええええッ!」 その時、礼拝堂の壁が轟音と共に崩れ、デルフリンガーを抜いた才人が飛び込んできた。 「サイト!」 才人の乱入に気を取られたワルドは、呪文を放つことなくウェールズから離れ、彼からの魔法から逃れた。 そして三人全員を警戒しながら、才人に問いかける。 「帰ったのではなかったのかね?」 「気が変わってな。せっかくだから、こっそり参列した」 才人の言葉は嘘である。ゼロの忠告が引っ掛かっていた彼は、最初から帰るように見せかけて、 ワルドに本当にルイズを守る気があるのか窺うつもりだったのだ。そしたら予想以上に悪い方向に 話が進んだので、我慢ならずに壁を破ったのだった。 「貴様、『レコン・キスタ』だな!?」 ウェールズが詰問すると、ワルドはあっさりと認めた。 「そうとも。いかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ。ルイズと、手紙、 そしてウェールズ、貴様の命を頂戴するのが目的だったのさ」 ルイズはワルドの裏切りが、この瞬間になっても信じられなかった。 「どうして! トリステインの貴族であるあなたがどうして!?」 「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない。 ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」 滔々と語るワルドに、才人とウェールズは敵意を向ける。 「『聖地』がどうとかいうのはわからねぇが、俺が許せないのは、ルイズを騙しやがったことだ。 ルイズはてめえを信じていたのに……!」 「全くだ。騎士の風上にも置けぬ輩よ」 「目的のためには、手段を選んでおれぬのでね」 全く悪びれた様子のないワルドがウェールズの魔法をかわすと、才人を狙って杖を向ける。 先に才人から始末してしまおうという魂胆のようだ。 「デルフ!」 「おうよ! 今度は俺の真の姿を見せてやるぜ!」 才人が叫ぶと、デルフリンガーが錆刀から光り輝く本来の刀身に変身した。 「ほう……あの時の決闘では本気ではなかったということか。だがガンダールヴの方はどうかな!?」 ワルドが『ウィンド・ブレイク』を唱え、猛る風を飛ばしてくる。それを才人はかわせないが…… 何と、デルフリンガーがその風を全て吸い込んだ。 「はい?」 一番驚いたのは他ならぬ才人だった。今のがどういうことか、デルフリンガー自身が説明する。 「今のはデルフリンガーさまの能力よ! ちゃちな魔法なんか全部、俺が吸い込んでやるぜ! この『ガンダールヴ』の左腕、デルフリンガーさまがな!」 「お、お前、早く言いやがれよ!」 「しかたねえだろ。忘れてたんだから。なんせ、今から六千年前も昔のことだからな」 「あーもう! とにかく行くぞッ!」 非常に大事なことを忘れるデルフリンガーには呆れ返るが、とにかく魔法を吸収できるのは大きなプラスだ。 才人は遮二無二ワルドに斬りかかっていき、ウェールズが離れた位置から援護攻撃を放つ。 ワルドはそれらをかいくぐって才人から距離を取ると、薄く笑った。 「さすがに二人同時に相手をするのはきついな。では本気を出すとしよう。風の魔法が最強と呼ばれる、 その所以を教育いたそう」 ウェールズはワルドの思惑を見抜いて、呪文を阻止しようと風の刃を繰り出すが、 ワルドは刃を全てかわしながら呪文を完成させた。 するとワルドの体がいきなり分身し、気づけば五体のワルドが才人とウェールズを取り囲んだ。 「風の偏在だな!」 「如何にも。風は偏在する。風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」 ワルドの分身が真っ白の仮面を被る。それを見た才人の体が震えた。フーケの隣に立っていたり、 『桟橋』で一行を襲ったりした男の仮面と同じものだった。仮面の男の正体は、ワルド自身だったのだ。 五体のワルドが一斉に、才人とウェールズに襲い来る。しかも全員が『エア・ニードル』を唱え、 杖を青白く光らせた。 「杖自体が魔法の中心だ。剣で吸い込むことはできぬ!」 才人とウェールズが五体のワルドに必死に応戦するが、数に押されて苦戦する。特に才人は、 二体のワルドに少しずつ切り刻まれていく。 「デルフ! 相手を一撃で吹っ飛ばすような必殺技とかないのか!?」 「んなもんねえよ。おりゃあ、剣だってよ」 「つかえねえ! 何が伝説だよ!」 「いやまあ、その程度だって」 ウェールズは追い詰められる才人を援護しようとするのだが、彼もまた三体のワルドを同時に相手しているので、 とてもそんな余裕はなかった。 そのとき、戦いの輪から外れているルイズが、才人を助けようと杖を掲げた。 「逃げろ! ばか!」 才人の言葉を聞かず、ルイズは『ファイアー・ボール』を唱えた。爆発が、意識が向いていなかった 一体のワルドにぶつかって、消滅させた。 「当たった!」 喜ぶより驚くルイズだったが、才人を攻撃していたもう一体のワルドが、ルイズに躍りかかる。 負傷している才人はそれに追いつけない。 「逃げろ!」 警告は既に遅く。ワルドの杖が再び呪文を唱えようとしていたルイズを吹き飛ばした。 「ヴァリエール嬢!」 ウェールズが叫ぶが、それをかき消す勢いで才人が咆哮した。 「よくもルイズを……」 ワルドが身を翻して才人と剣戟するが、才人の動きは先ほどまでと同じ人間とは思えないほど鋭くなり、 しかも次第に速さを増していく。ワルドは驚き、問いかけた。 「どうして死地に自ら来た? お前を蔑むルイズのため、どうして命を捨てる? ルイズに恋したか? 適わぬ恋を主人に抱いたか! こっけいなことだ! あの高慢なルイズが、貴様に振り向くことなどありえまいに! ささやかな同情を恋と勘違いしたか! 愚か者め!」 「恋なんかしてねえよ!」 才人は唇をぎりっと噛んで怒鳴った。 「ただ、どきどきすんだよ!」 「なんだと?」 「ああ! 顔を見てると、どきどきすんだよね! 理由なんかどうだっていい! だからルイズは俺が守る!」 絶叫すると、左手のルーンが光り、それを受けてデルフリンガーも光った。 「いいぞ相棒! その調子だ! 思い出したぜ! 『ガンダールヴ』の強さは心の震えで決まる! 怒り! 悲しみ! 愛! 喜び! なんだっていい! とにかく心を震わせな、俺のガンダールヴ!」 才人の剣さばきが更に速くなる。耐え切れなくなってきたワルドは、ウェールズと戦っている内の一体を呼び寄せ、 背後から斬りかからせるが、振り返った才人に一瞬で斬り捨てられた。 その背に電撃を放つワルド。だが才人は空中高く飛び上がり、ワルドに接近していく。ワルドも飛んだ。 「空は『風』の領域……貰ったぞ! ガンダールヴ!」 ワルドの杖が伸びる。デルフリンガーが叫ぶ。 「戦うのは俺じゃあねえ! お前だ、ガンダールヴ! お前の心の震えが、俺を振る!」 才人とワルドが交差し、着地する。 着地したのは才人だけだ。ワルドは床に叩きつけられ、斬り落とされた左腕が、一瞬遅れて地面に落ちた。 「くそ……この『閃光』がよもや後れを取るとは……」 倒れて動けないワルドに、一体が離れたことで優勢となり、二体を破っていたウェールズが杖を向けた。 「動くな、背信者ワルド。貴様の目的は全て失敗だ」 手詰まりを理解したワルドが、ぎりぎりと歯ぎしりした。 そのとき、礼拝堂の扉が外から開け放たれた。 「おお、ウェールズ! これは何事か!? 結婚式を挙げておるのではなかったのか!?」 「ち、父上!? 何故こちらに!?」 入ってきたのは意外な人物、アルビオン国王ジェームズ一世だった。ウェールズは面食らうが、 それでもワルドへの警戒は解かなかった。 「礼拝堂が妙に騒がしいから、見に来たのだ。そうしたら、このありさまだ。ウェールズよ、 一体何が起きたのかね?」 「はい。実はこのワルドは、貴族派の回し者だったのです。こやつの卑怯な杖から、その使い魔の少年が 私を救ってくれまして……」 説明している途中で、ウェールズは不審な点に気づいた。父ジェームズは既に老齢で、 歩くだけでも苦心する身のはず。それなのに今は、誰の手も借りずに早足で歩いている。 これは一体……? 「そうか、君が……大分苦しそうだな……」 「あッ、大丈夫です。ちょっと休めば、すぐに回復するんで……」 疲労困憊で膝をついている才人に、ジェームズが歩み寄る。そして手を差し向けると、 その腕から、紫色の光線が放たれて才人の胸を撃った! 「がはッ!?」 「その必要はない。お前の命はここで終わるのだからな!」 「えッ!?」 あまりのことに、起き上がったばかりのルイズも、ウェールズも、ワルドさえも驚愕した。 才人は吹っ飛んで、壁に叩きつけられた。 「サイトぉ! サイトに何するのよッ!」 「父上でないな! 誰だぁッ!」 ルイズの爆発とウェールズの風の刃が同時にジェームズに降りかかるが、ジェームズは老人と思えぬ 俊敏な動きでかわした。そしてその先で、クックッと笑う。 『その通り……私はこの国の王ではない……』 ジェームズの声色が変化すると、それを聞いたルイズが思わず叫んだ。 「えッ!? オールド・オスマン!?」 『違うわ!』 否定したジェームズの姿が、銀色の角張った頭部が胴体と一体化している怪人のものに変わっていった。 その怪人が名乗りを上げる。 『私は第八銀河系からやってきた、宇宙人連合の一員、ザラブ星人だ!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9013.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三話「姿なき脅威」 猛毒怪獣ガブラ 宇宙怪獣エレキング 登場 「ガアアアアアア!」 トリステイン王国の領地の一つであるド・オルニエール内に突然出現した怪獣が、空を飛んで 駆けつけたウルトラマンゼロに向かって咆哮を上げる。姿は獅子のようだが、顔面はどことなく 人間のように見え、薄気味悪い風貌である。この怪獣は、かつてウルトラセブンと戦って 牙に仕込まれた猛毒で苦しめた、猛毒怪獣ガブラである。 「ガアアアアアア!」 ガブラは光の戦士の命も脅かした極悪な武器である牙を剥いて、ゼロに飛び掛かっていく。が、 『てんで遅いぜッ!』 その動作は、訳あって劣悪な環境で、数いるウルトラ戦士の中でも近接戦闘最強といわれる ウルトラマンレオから血反吐を吐くような厳しい修行を課せられたことのあるゼロからすれば、 鬼ごっこの鬼の方がまだ良い動きをするのではないかと思いたくなるほどとろいものだった。 ゼロがすかさず飛ばしたゼロスラッガーが、相手にかわす暇どころかろくな反応をさせる暇すら与えずに首を切断した。 首を失ったガブラの胴体は、当たり前だが声もなく横転して動かなくなった。 『へへッ、今回も楽勝だったな』 余裕をこいて、親指で下唇をぬぐうゼロ。 とその時、胴体から離れてゴロゴロと転がっていったガブラの首が、何と宙に浮いてゼロの背後から忍び寄り出したではないか! ガブラの首はゼロに気づかれないように、音もなく無防備な肩へと近づいていく。そして、 大口を開いて食らいつく――。 「シャッ!」 その瞬間に振り返ったゼロがエメリウムスラッシュを放ち、一瞬でガブラの首を爆散させた。 『はッ、そんなこすい手が通用するかっての。首が飛ぶことは親父から聞いてるんだ』 と余裕綽々に語るのだが、それに反して胸のカラータイマーは赤く点滅していた。だがこれは 戦闘でエネルギーを多用したという訳ではない。トリステイン魔導学院の辺りから変身してから ここへ一直線に飛んできたので、その時間経過分があるからだ。この問題は、何も今日に始まった訳ではない。 この時点で既に数度経験していた。 『またピコピコ言ってるぜ。移動に時間を食っちまうの、どうにかならないもんかな……』 肩をすくめると、トリステインの民が死体の後処理で困らないように胴体の方もエメリウムスラッシュで爆破、 消滅させておく。全てが終わると、両腕を高く掲げて、 「ジュワッ!」 天高く飛び上がり、魔導学院へと帰っていった。 だがこの戦いを、ある場所から観察している者たちがいたことを、ゼロは知らなかった。 『ウルトラマンゼロ……聞きしに勝る強さだ。ガブラをこともなげに瞬殺するとは』 正体の知れない者の一人が口を開くと同時に、その場にいる他の者たちが釣られたようにしゃべり出す。 『全くその通りだ。奴がいると、我々の侵略計画に大きな支障が出る』 『この星の――大陸の名前を取って、仮にハルケギニア星としよう――知的生命体である ハルケギニア人の文明水準は丸でお話にならんレベルだが、あのウルトラ戦士がいては迂闊に手が出せない』 『こんな辺鄙な別の宇宙に来てまで我々の邪魔をするとは、全く以て憎らしい……』 誰もかれもがゼロのことを恐れて、同時に恨みの念を抱いていた。だがそんな中で、こんな意見が出る。 『しかしウルトラ戦士には、致命的な弱点がある。一定以下の環境下では、真の姿を保っていられないことだ。 滞在するにあたり、その星の生命体に準じた姿にならなくてはならない』 『その通りだ。そして多くの者は、本来の姿となるのにエネルギーを摂取するためのアイテムが必要。 ウルトラマンゼロもその一人。つまりそのアイテムを使わせなければ、奴は赤子も同然』 この言葉で、場に押し殺した邪悪な笑い声が響く。 『奴のこの星での姿はもう調べがついてある。後は機会を待つのみ!』 『時が来れば、奴の変身を封じ込め、そのまま一気にこの美しい星を頂こうぞ!』 ゼロの力を奪い去る計画を既に立てていたこの者たちは、邪な陰謀を胸に抱えたまま、その「時」を待つことにした。 そんなことがあってからの、後日。「虚無の曜日」というハルケギニア社会における毎週の休日。 「へぇ。ここが「城下町」っていうもんか」 才人とルイズの二人は、トリステイン王国の城下町、ブルドンネ街の大通りにやって来ていた。 才人は初めて目にした、ファンタジー世界そのままの石造りの街並みを物珍しそうに見回す。 そしてひと言感想を漏らした。 「道が狭いな」 「狭いって、これでも大通りなんだけど。……まぁ、あんたの元の世界と比べたら、そう感じても無理ないんでしょうけど」 ルイズは地球でのウルトラ戦士と怪獣の戦いの記録を見た時に、街の道幅が広く取られていることにも驚きを覚えていた。 「怪獣がしょっちゅう出てくる環境だから、道が広くないとやってけないのかしら?」 「それが理由って訳じゃないんだけど……ゼロ、お前はこの通り、どう思う?」 才人が何となしに尋ねると、ゼロは才人と同じ意見を発した。 『俺の故郷、光の国と比べても狭いな。まッ、光の国より広い道があるところなんて、 宇宙中探しても見つかるもんじゃないだろうけどな』 「……まぁ、そりゃそうだよな。ウルトラマンの街だもんな」 「40メイルを超えるのが通常サイズなんだから、当然よね……」 まさしく宇宙並みのスケールの話に、才人もルイズも若干呆けた。 彼らがブルドンネ街に足を延ばしたのには、理由がある。才人が剣を欲したからだ。 ベムラーたちが現れて以降は、学院の周辺に異常事態は発生しなかったので、学院はある程度 落ち着きを取り戻していたのだが、昨夜、才人がサラマンダー(サラマンドラではない)によって その主人であるキュルケの部屋に引っ張り込まれる事態が起きた。するとキュルケは、 ギーシュを倒した才人に恋心を抱いたとか何とか言って彼を誘惑し出したのだ。その場は、 キュルケがその前から約束を作っていた男子生徒たちが窓から突入しようとしてはぶっ飛ばされたり、 カンカンになったルイズが乱入してきたりで流されたのだが、才人がキュルケといたところは その男子生徒たちに見られてしまった。それで身の危険を感じた才人はルイズに、 自分の身を守るための武器に剣をねだったのである。ウルトラマンゼロの力を借りれば男子生徒ぐらい、 と思うかもしれないが、才人もそんなしょうもないことのために力を借りるのは気が引けたのだ。 そんな訳で、剣を買いに来たという訳である。 怪獣が出没するようになってしまったハルケギニア大陸だが、その回数はまだまだ少ない。 また、今のところ都市部に出現した例はないので、ブルドンネ街には実に平和な空気が流れている。 そして武器屋を目指す最中、好奇心旺盛な才人は道端の店をキョロキョロと見回してずっと忙しない様子だった。 そんな落ち着きのない彼を、ルイズが叱る。 「ほら、寄り道しない。スリが多いんだから! それでなくても、最近は怪事件が多発して物騒になってるそうなのよ。 気をつけなさい」 「怪事件?」 「ええ。何でも深夜になると、道行く人がいきなり消えちゃうそうなのよ。貴族が一人消えた時は、 王宮はそれこそ大騒ぎだったらしいわ。学院もゼロの話以外だと、その噂話で持ち切りよ。 聞いた話だと昨夜も、検問を張ってた夜警たちの目の前で、人が一人消えちゃったんだって。 それも比喩じゃなく、本当にスーッと、幽霊だったみたいに。まぁ貴族の噂だから、 どこまで信じられるか分からないけど」 その話に、才人ではなくゼロが最も関心を示した。 『そいつは聞き捨てならない話だな。もしかしたら、侵略宇宙人の仕業かもしれねぇ』 「でもゼロ、この世界に宇宙人っているのか?」 『俺たちの世界の怪獣が入り込んできてるんだから、宇宙人どもがこの宇宙に侵入してきててもおかしくはないぜ。 第一昨日倒した怪獣は本来、シャドー星人の用心棒怪獣だったはずだ。首も外部からのコントロールだってことだぞ』 「なるほど。つまり、あいつを操ってた奴がどこかにいたってことが考えられるのか……」 「ち、ちょっと待ちなさい!」 ゼロと才人だけが理解している話を始められたので、置いていかれているルイズが説明を要求する。 「その、ウチュウジンっていうのは何なの? 怪獣とは違うものなの?」 この問いにゼロが答える。 『ルイズ。このハルケギニア以外にも大地が存在し、それらは「星」というもんだってことは話したよな?』 「ええ。覚えてるわ」 『その「星」にも、お前や才人、俺みたいに知性を持った「人間」が存在してることもある。 そういう「星」に住む「人間」のことを総称して宇宙人と呼ぶのさ。俺やルイズ、 お前だって厳密に言えば宇宙人なのさ』 「そうなの。でも、あなたたちが言ってるのはそれと違う意味のようだけど?」 『賢いじゃねぇか。確かに俺たちが言ってる宇宙人は、俺たち以外の星の人間、異星人の意味合いだな。 で、この宇宙人というのは、友好的な連中ばかりじゃない。別の星を力ずくで奪い取り、 支配してやろうと日々狙ってる悪い宇宙人が、俺と才人の宇宙にはわんさかいるんだよ』 「侵略戦争を仕掛けてるって訳ね……。それで、その侵略者のウチュウジンが、 ハルケギニアを狙ってるかもしれないってこと……?」 『その可能性は十分にあるな。侵略者ってのは基本力任せの怪獣とは違い、陰でコソコソ動き回って 人の隙や弱みを突こうとするもんだ。その分、怪獣よりも性質が悪い』 新たな敵の存在を知ったルイズは、思わず意識が遠のいたような気分になった。 「怪獣だけでもとんでもないのに、そんな奴らがハルケギニアに本当に忍び込んでるなんて、考えたくないわ……。 そいつらも、何か恐ろしい力を持ってるんでしょ?」 『まぁな。ちょうど俺のように、地球人型とは全く違う姿で、多種多様な能力を持った宇宙人が数え切れないほどいる。 だが心配はいらねぇぜ。このウルトラマンゼロがいる限り、侵略者なんかの好きにはさせないからな! 今からでも、 怪事件が本当に宇宙人の仕業か調べてもいいんだぜ』 「はぁ……。まぁとりあえずは、今日の目的を先に済ましちゃいましょう……」 大きくため息を吐きながら、ルイズは才人とともに武器屋への道筋に着いた。 ……その二人のことを尾行している者がいることは、ゼロですらも気づいていなかった。 路地裏に入ったルイズたちは、目的の武器屋を発見し、店の中に入った。店内は昼間だというのに薄暗く、 奥では店の主人が胡散臭げにこちらをながめていたが、ルイズの紐タイ留めに描かれた五芒星に気づいてへりくだる。 「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、 これっぽっちもありませんや」 「客よ」 ルイズは腕を組んで言った。 「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」 「どうして?」 「いえ、若奥さま。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下は バルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」 「使うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」 「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」 ルイズと主人が会話している後ろでは、才人が店に並んだ武器を興味津々にながめていた。 「うわッ! すげぇなー。どれも強そうだな」 『そうかぁ? どれもこれも質がいいとは言えないと思うんだがな』 武器のことなどてんで知らない才人は感心しているが、本物の戦闘を何度も経験して、 自身もいくつかの武器の扱いがあるゼロは、商品に難癖をつけていた。その声が主人に聞こえないのが 何よりの救いであった。何せこの武器屋の主人は、お世辞にも良い性格とは言えないのだ。 「わたしは剣のことなんかわからないから。適当に選んでちょうだい」 とルイズが言うと、案の定主人はルイズからぼったくろうと考え、きらびやかな細身の剣を薦め始めた。 「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。 その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」 「貴族の間で、下僕に剣を持たすのがはやってる?」 「へえ。近頃は『土くれ』のフーケとかいうメイジの盗賊が城下町を荒らしたり、人間の消失が相次いだり、 物騒なことが続きまさあ。だから貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」 レイピアをながめたルイズは才人を側に寄らせ、小声で尋ねかける。正確には、才人の中のゼロに向けて。 「どう? あなたから見て、これは」 『あー……ダメだな。切れ味は悪くなさそうだが、そんな細いんじゃすぐに曲がっちまうだろうよ。 長く使うつもりなら、切れ味よりも強度を重視した方がいいな』 ゼロはそう駄目出しした。ルイズも、才人が大きな剣を軽々と振っていたのを思い出し、 別のものに変えてもらうことにした。 「もっと大きくて太いのがいいわ」 「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、 若奥さまの使い魔とやらには、この程度が無難なようで」 「大きくて太いのがいいと、言ったのよ」 ピシャリとはねつけると、主人はペコリと頭を下げて奥に消える。だがその時に「素人が!」と 陰口を叩いたのをゼロは聞き止めた。 そして今度に持ってきたのは、1.5メイルはあろうかという大剣だった。宝石が散りばめられた、 何ともぜいたくなこしらえである。 「これなんていかがです? 店一番の業物でさ」 しかしそれを見たゼロは呆れて述べる。 『もっとダメだな。そいつは見栄えを良くしただけで、とても実用に耐えるもんじゃない。 客から金をふんだくるためだけのガラクタだぜ。……店主の態度も悪いし、 こりゃ別の店で選んだ方がいいんじゃないのか?』 見切りをつけるゼロなのだが、ルイズには他に武器を売っているところに心当たりがない。 どうしようか悩んでいると、突然第三者の声が割り込んできた。 「坊主、おめえ自分を見たことがあるのか? その体で剣をふる? おでれーた! 冗談じゃねぇ! おめえにゃ棒っきれがお似合いさ!」 「なんだと?」 けなされた才人が振り返るのだが、その方向には誰もいないので首を傾げる。ただ剣が積んであるだけだ。 なのに、主人は頭を抱えた。 「わかったら、さっさと家に帰りな! おめえもだよ! 貴族の娘っ子!」 「失礼ね!」 ルイズも怒って声の主を探すのだが、やはり誰もいない。才人は、この辺からしたよな、 と思って剣の山に近づく。 「なんだよ。誰もいないじゃん」 「おめえの目は節穴か!」 その声で、ハッキリと分かった。声は、サビの浮いたボロボロの長剣から発せられていたのだ。 「剣がしゃべってる!」 「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」 「デル公?」 主人はしゃべる剣のことを、名前で呼んだ。ここでルイズが主人に問いかける。 「それって、インテリジェンスソード?」 「そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、 剣をしゃべらせるなんて……。とにかく、こいつはやたらと口が悪いわ、客にケンカは売るわで閉口してまして……。 やいデル公! これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」 「おもしれえ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」 どうも主人と剣は仲が悪いようだった。口喧嘩していると、才人が剣を掴んで持ち上げる。 「もったいないよ。しゃべる剣なんて面白いじゃないか。お前、デル公っていうのか」 「ちがわ! デルフリンガーさまだ! おきやがれ!」 「名前だけは、一人前でさ」 才人に掴まれたデルフリンガーは、最初は嫌がっていたが、すぐに静かになった。そしてこうつぶやく。 「おでれーた。見損なってた。てめ、『使い手』か」 「『使い手』?」 「ふん、自分の実力も知らんのか。……そしてもっとおでれーた! おめえ、中にもう一人いるな? 『使い手』が二人で一人なんて、前代未聞だ」 デルフリンガーは才人の中のゼロに明らかに気づいていた。このことに才人もゼロも、ルイズも驚愕する。 「まあいい。てめ、俺を買え」 「……分かった。ルイズ、これにする」 才人が決めたことに、ルイズは顔をしかめた。 「そんなのにするの? もっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ」 「いいじゃんかよ。しゃべる剣なんて面白い。それに……」 才人はルイズにそっと耳打ちする。 「ここに置いたままで、ゼロのことを言いふらされても困るしな。俺たちのところに置いといた方がいいって思わないか?」 『俺も賛成だぜ。こいつは見た目こそオンボロだが、相当な力を感じる。しゃべるだけの剣じゃないってことを保証するぜ』 ゼロからも説得され、ルイズはしぶしぶ購入を承諾した。 「あれ、おいくら?」 「大剣の相場は新金貨で二百ですが、あれなら百で結構でさ。こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」 ちょうど手持ちの上限だ。他に選択肢がないことも知って、とうとうデルフリンガーを購入した。 「どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」 鞘も受け取り、デルフリンガーは才人の武器でありもう一人の相棒となった。 ルイズたちが出ていった後で、武器屋にキュルケとタバサのコンビが入ってきた。実は ルイズたちが城下町に出掛けていったことを知ったキュルケが、二人の動向を監視するために タバサを巻き込んで後をつけてきていたのだ。そして才人が入った時には持っていなかった剣を 背負っていることで、ルイズが剣をプレゼントしたと思い込み、嫉妬に駆られて 自分も剣を才人に与えることを思い立ったのだ。 主人がキュルケに薦めたのは、ゼロがこき下ろした大剣だった。キュルケにはその実態が分からないので、 ルイズに差をつけようと思ってそれを買い取ったのだが……この時彼女は色仕掛けにより、 大剣を定価の四分の一以下まで値切ることに成功。我に返った主人にやけ酒をさせることになったのだが、 それは別の話。 『……あいつもよくやるよ』 キュルケがつけていたことに初めから気づいていたゼロは、超聴力でその流れを聞き止めてそう発した。 「何か言ったか?」 『いや、何でもない』 才人が聞き返すとごまかした。 「相棒よ、後でおめえの中の、ゼロって奴のことを詳しく聞かせろよ!」 「ああ。お前にも説明しておかないとな。すごい話だから腰抜かすなよ?」 「抜かすもんか! 何故なら腰がねぇからな!」 気に留めなかった才人は、鞘からちょっとだけ出したデルフリンガーと談話する。 その時に、事件が起きた。突然、道端の店舗が上空から降ってきた光線によって爆発炎上したのだ。 「きゃあああッ!? き、急に何!?」 「今のは……どこから攻撃が!?」 大通りは一瞬で恐慌状態になる。才人は空を見上げて光線の発射主を探すが、何も飛んでいない。 デルフリンガーの時と違って、今度は本当に何もなかった。 だが、光線は次々発射されて街を火の海に変えていく。光線は宙から撃たれていた。 「何もないところから!? これは……!」 『ああ。どうやら侵略宇宙人の仕業のようだぜ』 だが事態はこれだけで終わりではなかった。突如爆発が起こすものとは違う地響きが鳴り渡ると、 城下町の真ん中に長い尾を持った怪獣が現れたのだ! 「キイイイイイイイイ!」 「あいつは! エレキング!」 本来目があるべき場所に三日月型のアンテナを生やした怪獣は、数いる怪獣の中でも有名な方で、 才人も名前を知っていた。 「キイイイイイイイイ!」 エレキングはすぐに三日月状の放電光線を放って、更に街を焼き尽くしていく。トリステインの城下町は、 一気に地獄絵図へと叩き落とされていく。 こうなった以上、モタモタしてはいられない。才人たちは直ちに人目につかない細い路地に飛び込んだ。 「サイト! ゼロ! これがウチュウジンの攻撃なの!? 怪獣まで現れて!」 「ああ。間違いないみたいだ。って訳で、変身だ!」 『心配するな。すぐにみんな片づけてやるぜ!』 才人は腕を伸ばし、ウルティメイトブレスレットからウルトラゼロアイを出した。 「相棒! 一体何しようってんだ!? 何かすげえことか!?」 「その通りさ。さぁ、行くぜ!」 ウルトラゼロアイを手に取って、いざ顔に装着しようとした、その時、 「うわッ!?」 突然見知らぬ女にぶつかられてよろめいた。 「ちょっとそこの! 気をつけなさいよ!」 ルイズが怒鳴り声を上げるが、女は無視して走り去っていく。 「あービックリした。改めて変身……」 才人の方はあまり気にせずに変身を続行しようとしたのだが、そこにルイズが金切り声を上げた。 「サイト! あなたウルトラゼロアイは!?」 「えッ!? あぁぁ!? なくなってる!!」 つい今しがたまで手に持っていたウルトラゼロアイが、いつの間にかなくなっていた! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔